ゲーム業界への就職活動
関 宏之
平成14年10月28日
  1. はじめに
  2. ここ数年、家庭用ゲーム機が進歩するに連れて、ゲーム業界への注目が次第に高まっている様に見受けられます。安定した企業による株式市場への上場や、グラフィック技術の向上による視覚的な影響等がそれまでゲームに興味がなかった層を惹き付ける事に一役買ってか、方々のWebサイトにはゲーム開発者のインタビューが掲載され、同業界の業務内容と共に採用の為の基礎能力や各種専門学校等が取り沙汰されています。

    本稿では、私自身のゲーム開発企業への就職活動における実体験を些かの考察を交えながら綴っていきます。上述のWebサイトに比べれば著しく一般性に欠けるかとは思いますが、拙稿がゲーム業界に興味がある方々への一助になれば幸いです。

  3. 求人状況
  4. ゲーム開発企業という業態の中にも様々な職種が存在するのはご存知かと思います。大まかには開発職と営業職がありますが、開発企業という業態上、開発職が求人の多数を占めています。営業職には広報や会計が主ですが、特殊な所では法務に携わる職種も存在します。新卒での営業職の求人は、大手企業が毎年数人採るか採らないか程度ですので、同職への採用は非常に狭き門となるでしょう。

    とは言いましても、開発職も開発職なりに倍率は高くなります。専門学校生を始めとしたゲーム業界に魅力を感じて就職を希望する方は、概ね開発職を目指していると言っても良いからです。開発職内での求人状況は企業毎に若干の相違はありますが、新卒者に対する求人は降順で、プログラム、グラフィック、企画並びにサウンド、となっているようです。企業によってはプログラム職とグラフィック職の人数比はまちまちですが、求人している企業の大半はこのニ職種を求めているようです。企画職とサウンド職を募集している企業は稀であり、採用枠もプログラム職やグラフィック職に比べて格段に小さく、毎年募集しているとも限りません。求人を探す段階で苦労するではないでしょうか。

    採用試験の一環として、プログラム職や企画職での作品提出は少数ですが、当然ながらグラフィック職やサウンド職では作品提出が必須です。年齢や学歴による制限は大手企業になるほどに厳密で、新卒年度(卒業予定者)のみ募集している企業も少なからず存在します。中堅企業はある程度融通が利いた求人条件ですが、元より採用枠が小規模な上、経験者と同列に扱う所もあり(つまり、新卒・中途の区別が無い)、相当の実力が要求されると推察されます。但し他業種と比較した場合、学歴はそれほど要求されないようです。出身大学の区別は無きに等しいでしょうし、専門学校と四大の差も、高々書類上の違いに毛が生えた程度と見て差し支えないでしょう。

    以下は、プログラム職を希望した就職活動を基に話を進めさせて頂きます。

  5. 就職活動開始
  6. 私の場合、求人情報はひとえにインターネットを通じて集めていました。しかし、就職情報の総合サイトで多くのゲーム開発企業の求人情報を得る事は出来ません。複数のWebサイトに情報が散在しているのはもちろん、この様な情報サイトに頼らない企業もあります。エントリーの際に必要な場合もありますから、就職関連のWebサイトに登録する事自体は有益ですし、各種有用な情報は大いに活用すべきです。けれども、自分から率先して各開発企業のWebサイトを閲覧し求人情報を探す事も大事です。思いがけない情報に遭遇するかもしれませんし、既知の企業情報を精査する事にも繋がります。何よりも、その主体的な行動が就職活動にとってプラスになる事と思います。

    4月上旬には多くの企業が説明会を始めていますので、求人情報には年明けから頻繁に目を通しておきましょう。(但し、1月に説明会があった企業もありますので、行動開始が早ければそれに越した事はありません。)説明会のエントリーが始まりましたら、努めて速やかに登録を済ませる方が賢明でしょう。瞬く間に定員が埋まってしまい、説明会が集中する時期には日程の調整が難しくなります。登録の際、エントリーシートで不合格となる事はまずありませんが皆無とも言い切れませんので、誠意を持って丁寧に書いておくのが無難です。

  7. 会社説明会及び適性検査
  8. 会社説明会は広く公開されている情報よりも詳細な業務内容や、現場から招請した開発者の声を聞くことが出来るため大変に有意義です。又、昨今の風潮なのかもしれませんが、多くの企業が就職希望者に対して安易な気持ちで入社を希望する事を戒めていました。社是としての向上心を対外的にアピールしている、とも勘繰れますが、筋の通った尤もな話である事も確かです。方今、企業体質というものが問われる時代です。こういった、敢えて希望者に痛棒を食らわす様な行為も一つの判断材料となるでしょう。

    多くの会社説明会には適性検査が伴います。大半の企業は所謂SPIですが、中には専門的な問題や時事問題を絡めて出題する企業もありました。いずれにせよ、付け焼き刃の勉強では大した効果は上がりません。本番で如何に集中できるかが重要ではないでしょうか。

    会社説明会に限りませんが、ゲーム開発企業と言えども就職活動全般はスーツが基本です。エントリーシートの体裁同様、当該の要素単独で合否が決定する事は有り得ないでしょうが、評価対象の一つになる可能性は十分にあります。最低限、風采や挙動ぐらいには気を配っても損はしません。

  9. 面接
  10. ご承知の通り、面接は採用試験における最重要項目であり、最難関でもあります。しかしながら、その形式や内容は多種多様です。面接の段階によっても異なりますが、面接官と希望者が個室で話し合う事もあれば、10人以上の希望者に対して面接官が質問を順に投げ掛ける形式もあります。

    面接内容は自己紹介と一問一答に大別されます。私見ながら、自己紹介はそれほど重要視されていないのではないかと思います。自己紹介の様に、事前に文言を吟味できる返事を如何に流暢にこなした所で、企業側からは『事前に文章を纏めて諳んずる事ができる能力』としてしか評価されないかもしれません。むしろ、唐突で耳新しい質問を落ち着いて応える事の方が、柔軟な適応力として評価されるだけでなく、面接官の用意、意図した質問であるという点で、その返答は自己紹介等よりも評価要素として重きを成すと思います。但し、第一印象を決める自己紹介を卒無くこなす事に如く事は無いでしょう。

  11. 内定後
  12. 実際に入社するまでに必要なスキルは何か、という疑問を抱き、会社に質問する内定者の方もいらっしゃるそうです。事実、入社までに基礎的な技術を学習させる所もあるようですが、私の所は「そんな事を気にする必要は無い」「学生の内にできる事をしろ」と言われました。別の企業の面接では、入社後は身につけた知識が流出していくばかりなので、今の内にでき得る限り百般の情報に触れておくべきだと教えられました。即戦力として期待されて入社する場合もあると思いますが、大抵の場合、仕事の上では新卒者は新卒者でしかないとの認識をされているようです。ならば寧ろ、業務に忙殺されている既存の社員には無い素養を持っている事を、企業は新入社員に期待しているのではないでしょうか。

  13. おわりに
  14. ここまで読んで頂いて退屈に思われた方も多いのではないでしょうか。とどのつまりゲーム開発企業に対する就職活動は、それ以外の企業へのそれと大きな隔たりはありません。もちろん、グラフィック職やサウンド職にはそれ相応の技術が求められますし、作品提出のないプログラム職であったとしても、計算機に対する多少の素養は必要かもしれません。しかし、世で持て囃されているほどゲーム開発という職業は芸術性に偏重している訳ではありません。企業体である以上、生産性、商業性は必要です。社会の構成要因としての世間体も重要です。よって、最低限、社会人としてやっていけるだけの人となりを試され、採用の可否はその様な人間的基礎を前提として、個々人の特徴で判断されるのでしょう。

    企業が求める特徴は、決してゲームに直接関係する事柄に制限されるものではなく、それまで各々が学んできた学問や嗜んできた趣味であり、十人十色です。一見、直接どころか全く関係が無いような素養でも、ある事に打ち込んできた、という熱意自体が十分な評価と成り得るのではないでしょうか。逆説的ですが、ゲーム開発企業に就職するにあたっては、『ゲーム企業に就職したいと思う暇も無い』ほど、何かに夢中になる事が重要かと思います。