ZEUS2カルネージハートとAI


和田 淳


x68はゲームを生み出す事を目的としている。
したがって、ある特定の市販ゲームについて語るのは会誌の内容としてふさわしくないのだが、それでも敢えて紹介すべきゲームがある。
ZEUS2カルネージハートは3年ほど前にアートディンクが発売したプレイステーション用ゲームソフトである。
古いと思われるかもしれないが、これでもカルネージハートシリーズの中では最新作に当たり、 今のところZEUS2に代わる同じジャンルのコンシューマーゲームはおそらくどこからも出ていない。
このゲームの最大の特徴は無人機動兵器の思考プログラム(すなわちAI)をプレイヤーが自由に組めることである。
戦闘は最大7体の無人機動兵器によるリアルタイムの撃ち合い(あるいは殴り合い、爆弾の投げ合い、地雷撒布、空爆etc) なので戦術シミュレーションというよりは対戦型アクションゲームのように見えるのだが、 それでもプレイヤーはすでにプログラムを組んでいるのであとは見ているだけということになる。
3対3で戦う対戦モードでは、それぞれのプレイヤーがお互いのデータを持ち寄って競うことが出来る。
無人機動兵器と言ってもその種類は28種類+αとさまざまであり、武器やそのほかの装備も色々なものが用意されているので 非常に戦術の幅が広い。
すなわち、プログラムを組むときには自分なりの戦術を考えたり相手の戦術に対処する駆け引きが要求されるのである。

ところで、ゲームを創る者にとってAIとは何だろうか。
アクションやシューティングでは敵キャラクターの動きが単純でもほとんど問題はないし、 RPGでは簡単な条件分岐のほかはほとんどランダムに動かしているだけである(一部例外あり)。
しかし戦術シミュレーションや格闘ゲーム、レースゲームに代表される対戦を重視したジャンルにおいては、 人間の相手がいないときのそのゲームの面白さに直に影響してくる。
将棋や囲碁などのボードゲームに至ってはAIの強さでその価値が決まる。
しかしほとんどの場合、AIとやるより人間とやるほうが面白い。
単純に弱すぎて相手にならないというだけでなく、 ワンパターンで駆け引きにならないとか何度戦っても強さは変わらないといったことが主な理由である。
しかし、インターネットでZEUS2の強豪プレイヤーのプログラムデータをダウンロードして (そのためのツールもひそかに出回っている)対戦してみると、もし自分が直接操縦しても勝てないと思えるくらい強いのである。
相手のありとあらゆる戦術に対応しており、敵のタイプに合わせてさまざまな戦術を使い分けてくる。
つまり駆け引きをしているのである。
少なくとも、もしZEUS2が兵器を操縦するゲームだったとしたら その相手としてお互いハンデ無しでも十分に楽しませてくれるに違いないとさえ思える。
AIといえど人間が作っているのであるから、人間とやるよりつまらないとは限らないのである。
ただ、ひとたび人間の手から離れてしまえば決められた通りにしか動かないのでワンパターンになりがちなのだが、 自分の思いつく限りの戦術や駆け引きを組み込むことが出来れば人間の動きに近づけることが出来る。
そこに人間に勝る反応の速さが加わるのだから、かなりの強さになる。
これは決して机上の空論ではなく、先にも述べたように実現されていることである。

AIの強さを売り物にした対戦型ゲームというものはボードゲーム系以外ではあまり見かけない (少なくとも目立った広告のしかたはあまりしない)のだが、 これはおそらくゲームがひとたび売り出されればAIも開発者の手を離れて決まりきったものになってしまうからだろう。
しかし、もしかしたらx68にとってこの方向性は案外有利なのではないだろうか?
x68が制作したゲームならば新しい戦術が発見されるたびにバージョンアップして強化することが出来るからである。
確かに強いAIを作るのには相当な労力がかかるが、 それでも頭を使った分だけ自分のAIが強く(あるいは弱く?)なってゆくのはやはり楽しいことであるはずだし、 ゲームの楽しさを損なわない程度にわざとAIを作りやすいようなシステムにするという方法もある。

ZEUS2ではプログラムを簡単に組めるように条件判断や命令のチップを並べていくという方式を取っているため、 残念ながらプログラムを言語で組む練習にはならない。
しかしAIを作ることの楽しさに触れる手軽な手段であることだけは間違いないし、 座標や変数を使った制御、味方との通信など奥の深いシステムも持ち合わせている。
もしAIに興味のある人がいたら、ぜひ手に取ってみてほしい。