はじめてのおとやさん

奥田



 はい、「はじおと」の始まりです。去年の会誌ではコードについての話をさせて頂きました、奥田です。 今年は音楽に関するネタが私の能力内ではもう残っていないということで、サークルの会合にて小さな 調査をしましたところ、『初めて作曲する人は何から始めればいいのか』という意見が出ました。今回は これで原稿を書いてみましょう。これを読んだアナタ、妙なゲームしてないで作曲でも始めましょう。

〜環境〜
 先ず、私が所有する環境をご紹介しておきましょう。この環境があれば、少なくとも私にできること は誰でもできます。

PC: ThinkPad iシリーズ1400
(CPU:400MHz程度 メモリ:64MB HDD:12GB)
音源: Roland SC−D70(USB接続)/VSC3.0
スピーカ: 普通のCDラジカセ
シーケンサ: Cakewalk Pro Audio8.0
その他: 安物のキーボード/Rドライブ
 以上です。まぁ、今まで作曲(DTM)なんぞやったこと無い人であればハード音源やシーケンサ、 キーボードは持っていないかも知れませんね。
 先ずDTMを始めるにあたって、シーケンスソフトは必須です。フリーでもいくらか入手できますが、 私はちゃんとしたソフトをお勧めします。結構値は張りますが。

〜なんでハード音源が要るん?〜
 MIDIを聴く為、そして扱える技に広がりが出るからです。例えば誰かさんの作曲したMIDI曲 を聴くとき、それがハード音源で作成されているなら、そのエフェクトやニュアンスを忠実に再現する 為にハード音源が必要です。ソフトシンセではエフェクトや音の種類に限界がありますから。ただ、M IDIの場合は例えハード音源であっても、その種類によって音質やエフェクトのバランスが若干変わ ってきますので注意が必要です。
 Windowsには元々ソフトシンセが入っています。また、シーケンスソフトを購入するとその会社の ソフトシンセが付いてくることも良くあります。しかしできれば、ハード音源があると心強いですね。 ただ、これから作曲を始めてみようかな、という方には手の出し辛い値段かと思います。

〜なんでキーボードが要るん?〜
 別に必要ないと言えば必要ありません。私にとっては作曲の手助けとして役立ってくれるだけです。 作曲経験の無い方でも、頭の中にメロディや曲想が浮かぶことは多々あると思います。が、それを直ぐ に譜面に起こせますか?私はできません。ある程度音楽に関して長けていないと、それは無理です。な ので、そのメロディをキーボードで弾いて確認しながら作曲するわけです。
 また、何の考えもなしにキーボードを弾いているだけで、何かのメロディが出来上がったりすること もあります。コードの確認なんかにも便利です。
 もし鍵盤以外に楽器、例えばギターなんかを扱えるなら、そういう方にとってはギターの方が使いや すいでしょうね。ただ、全く楽器の経験が無い人であれば、鍵盤楽器が一番楽です。鍵盤なら音階が分 かりやすいですし、初心者でも慣れやすいかと思います。
 もっと言えば、MIDIキーボードがあると便利ですよ。音源に接続することによってMIDIの情 報をやり取りできたり、シーケンスソフトと連携することもできるのです。だから好きな音色で弾いて みたりと、作曲もずっとしやすくなるでしょう。私の次なる目標物です。

〜なんで良質なスピーカが要るん?〜
 曲を良い状態で聴くためです。これに尽きます。後で述べますが、作曲に関して重要な事の一つに、「曲 を聴く事」があります。曲を聴くとき、良いスピーカであればあるほど聴きやすいですし、分析もしや すいのです。安いスピーカでは最初から音がこもっていたり、音が割れていたりするのでお勧めできな いのです。ノートパソコンに付いているスピーカなんかは問題外ですね。聴けたものではありません。 デスクトップPCに付属してくるようなスピーカも、少々心もとない気がします。作曲するなら、ちょ っと高価なCDラジカセやコンポのスピーカ、また1万円を超えるくらいのスピーカやヘッドフォンが あるといいですね。

〜とりあえず曲を思い付いたんやけど・・・〜
 さて、やっと話の核心に迫ります。機材や環境が揃えばいつでも作曲できますが、シーケンスソフト を立ち上げて白紙状態の譜面を眺めていれば曲ができる、なんてことは有り得ません。先ずは作りたい 曲を頭の中で演奏させなければなりません。と言っても、これは難しいことでも何でもありません。な んとなくボケーッとしてるときに曲が頭に浮かんでくることくらい、誰でもあるでしょう。
 大切なのは、それを忘れないことです。なんとなく思い描いた曲というものは、すぐに記憶から排除 されてしまうものです。御飯を食べてる間に忘れたりとか、授業を一つ受けたら忘れてたとか、そうい った事態が良く起こるのですよ。この現象を防ぐ手立てとして、録音があります。シーケンスソフトの 録音機能、テープレコーダ、電話の留守録機能なんかを使って口ずさんでおけば良いでしょう。ただ、 街中で突然携帯電話片手に歌い出すと変な目で見られるのでご注意を。録音することができなければ、 楽器で弾くのです。例えば思い付いたメロディをキーボードで何度も繰り返して弾けば、頭の中のメロ ディとしてだけでなく、鍵盤上での音階の並び、指の感覚として体に記憶されます。そしてこの方法も 駄目なら、いちかばちかいきなり打ち込んでみることです。かなり記憶に叩き込まれたメロディであれ ば大丈夫でしょうが、イマイチはっきりしないメロディだったりすると、打ち込んで試行錯誤している 内に忘れてしまったり、気づかない内に違うメロディになっていたりしますが。
 思い浮かんだ曲を形にするには、それをシーケンスソフトで打ち込むまでに忘れないようにしなけれ ばなりません。この忘れやすさは人それぞれですし、忘れないようにする為の方法もまた人それぞれで す。ただ、眠りに落ちる直前に思い付いた曲、朝起きて意識がはっきりしない内に思い付いた曲なんか は、防御策を取る前に忘れています。悲しいっす。

〜やっぱりメロディから作るんや?〜
 上述の方法では、「曲をメロディから作成する」ことが前提となっていますが、別にそれに限らなくて も大丈夫です。というか、そればっかりでもないでしょう。例えばテクノ系の曲なんかは、メロディか ら作るなんて無理っぽくないですか?人によっては、曲によっては、メロディでなくコード進行やリズ ム、ベースラインから入る場合もあるでしょう。リズムから入るってのは案外やり易いかもしれません。 手で机をパコパコ叩いていれば何か出てくるかも。結局、何から作るにしたってそれを忘れては意味が ありませんから、忘れないように。

〜曲なんか思い付かへんっちゅうねん!〜
 でしょうねぇ。いきなり曲を考えろったって出て来ない人も沢山いるでしょう。そんな人はどうすれ ば作曲できるようになるのか?その答えは「聴く事」です。
 とにかく色んな曲を何度も聴いて下さい。嫌いな曲を無理して聴く必要はありません。自分の好きな 曲を聴きまくって下さい。そうすると、その曲から派生したオリジナルのメロディが浮かぶこともある でしょう。また、「あ、この曲のリズム良いなぁ」とか「このコード進行は面白いね」なんてことも。人 間だって一つの動物です。生まれた時から頭の中に曲ができているわけではありません。曲を作るには、 その素材がなくては。とにかく既存の曲を聴きまくって、自分で扱える素材を増やしていくのです。メ ロディの雰囲気やリズムパターン、コードパターンをとにかく増やすのです。でないと曲は思い付きま せん。ゼロから作るのにはちょっと無理があります。
 「え〜?俺、色んな曲知ってるよ?」と思った人もいるでしょう。が、それでも曲が全然思い付かな いということは、聴き足りていません。もっと聴きまくってください。ちなみに私、食事時や何もして いないとき、先ず間違いなく何かの曲が流れています。CDであったり、MIDIであったり、テレビ 番組のBGMであったりします。とにかく年がら年中音楽と接しています。まぁ今の時代、いつも音楽 が流れている生活なんて珍しくもなんともありませんがね。とにかく聴きまくることです。普段BGM に囲まれて生活しているのにそれでも足りなければ、「曲を聴くだけの時間」を作って下さい。他に何も せず、曲を聴くことに全神経を集中させることもまた必要でしょう。
 そして曲を聴きまくった暁には、様々なメロディを創造することができるでしょう。また、コードの 流れを頭の中だけで展開させることや、各音に掛けるエフェクトの構想も可能です。これはもう、一に 「経験」二に「経験」です。そして、それがなんとなくできるようになってくれば、更なる高みが見え てくると同時に、作曲の奥深さを知り、世のミュージックコンポーザーの方々のレベルの高さを嫌とい う程思い知らされることになるでしょう。偉そうな口をきいている私でさえ、大きな目で見れば「作曲」 という世界の入り口に立っただけに過ぎません。まだまだ青いのです。まだまだ天井が見えないのです。 っつーか、誰にも天井など見えないでしょう。クリエイトというものはそういうものです。

〜シーケンスソフトはどう使うん?〜
 曲が思い付いたらシーケンスソフトで形にする。その具体的な方法です。私が使っているのはCak ewalk Pro Audio8.0ですが、まぁ大体のソフトもやることは同じかと思います。私 は歌唱曲以外では生録音などしませんので、100%パソコン上で作曲する場合について説明致します。 また、扱うソフトはCakewalkということで。
 やること自体は少ないと思います。メロディを打ち込むなら譜面ウィンドウを開いて、マウスで音符 を打ち込んでいく。パーカッションを打ち込むならピアノロールウィンドウ(ドラム譜が読めるなら譜 面でも可)を開いてマウスで打ち込んでいく。それだけです。あとはこの繰り返し。
 そして音色を変えたり、エフェクトを掛けたり、ひたすらこの作業を繰り返します。他のDTMコン ポーザーの方はどう思っていらっしゃるのか知りませんが、私はこの作業はあまり好きではありません。 正直言ってつまらないです。楽しいのは、この作業をこなすことによって曲が少しずつ出来上がってい くこと。この作業自体は本当につまらないと思います。ただ、自分の意図した曲を作るために必要な作 業なのです。

〜それで作曲せぇてか?〜
 まぁ、そうです。これで曲はできます。さぁ、作曲未経験者の方々、さっそくやってみましょう! できましたか?ははぁ、聞くに堪えない曲ができましたねぇ・・・そんなもんです。
 後は経験を積み、知識を増やして、扱える技術を増やしていくのです。さすれば人に聴かせることが できるような曲となるでしょう。要は経験ですよ、経験。・・・とまぁ、これで終わるのもなんなんで、 私がお教えできる範囲で少々技術的な話も致しましょうか。

〜ほなやってみよか〜
 では、曲作りに際しての私の扱える技術・知識を紹介しましょう。
・MIDIの構成
 MIDI曲を創作する場合、恐らく誰でもシーケンサを使うでしょうね。MIDIというのはそれ単 独で作曲する為に生み出されたものではありません。音楽を表現する方法が生楽器から電子楽器へと拡 大していくに連れ、当然コンピュータでそれらの情報を処理することも考えられるわけです。このとき、 各楽器間の情報の形式を統一する必要がありました。その規格として、MIDIインターフェースなる ものが開発されたのです。(因みにMIDIに類して良く聞く言葉、GMやSMFというのはそれぞれ、 MIDIインターフェース内のプログラムナンバーの規格、MIDIファイルを保存する場合のファイ ル形式を指します。)MIDIが扱う情報とは、音源が発音するチャンネルの情報やエフェクトです。音 の発音、停止、ベロシティ(鍵盤を押す速さ)、プレッシャー(鍵盤を押す強さ)などの情報をコントロ ールします。つまり、MIDIは音そのものの情報を扱うのではありません。よって、wavに比べる と圧倒的に少ない情報量で曲を表現できるのです。が、逆に言えばその情報をより正確に発音できる音 源というものが必要になるわけです。具体的には、複数の電子楽器をMIDIという規格で結合し、演 奏を録音してミキシングだけでなく音の修正などを行うのです。これを可能にするのがシーケンサです。 PC上で音楽を編集するためのソフトというわけですね。しかし今日では、このシーケンサを使って譜 面を編集し、それだけで曲を構成できるものが増えています。この経緯を知らない方にとっては、「MI DIは曲を作るためのフォーマット」という概念があったかもしれませんね。
・キー
 ではさっそく、曲を作るに当たっての具体的な話へと移行します。
 キーとは、曲の全体的な高さみたいなものでしょうか?例えばあるメロディがあったとして、そのメ ロディは「ド」の音から始まっているとします。しかし、実は「レ」から始めても「ミ♯」から始めて も、メロディの全体的な高さが変わるだけで全く同じ音の並びを作ることができます。これがキーが変 わっているということです。打ち込みを始める前にメロディを確認するとき、そのメロディの音域など に応じてキーを変えると、より良い曲作りができるでしょう。
・曲の構成
 私が曲を作るときは、基本的に主旋律、(副旋律、)ベースライン、伴奏、ドラムのトラックで構成し ます。が、これは曲によって千差万別。いくらでも増えますし、減ります。自分の曲想に合うように作 りましょう。MIDIなら通常1〜16トラック(チャンネル)、2ポート使えるなら32トラックまで 増やせます。
・エフェクト
 MIDIを使っての作曲を始める方にとって、最も心配の種となっているのはこれではないでしょう か?どんなエフェクトをどんな風に使えばいいのか分からない、といった風に。ということで、主なエ フェクトを紹介しておきましょう。
 例えば「Reverb」、これは音の残響感を変化させます。「Chorus」では一つの音を複数人で演奏してい るような、音に奥行きや厚みを与えることができます。「Pan」はステレオスピーカで発音させるとき、 その音をどの位置で鳴らすかを決めます。「Expression」は前述した「プレッシャー」と同じようなもので、音の強 さを変化させます。一つの音が鳴っている間に変化させることも可能です。「Modulation」は音に揺らぎ を加えます。これらのエフェクトは比較的低レベルなソフトシンセでも表現できるようなものですが、 ハード音源を持っていればさらに多種多様な編集が可能となります。
 それは例えばNRPNやRPNと呼ばれる拡張領域。NRPNではCutoff(Low Pass Filter)や Resonance、Attack time、Release time、Decay time、Vibrato Rate、Vibrato Depth、Vibrato Delay といったものを扱えます。詳細は省きますが、これらは「音にエフェクトを掛ける」というよりも「自 分の意図した音を作る」という色が強いものです。
・曲完成後
 曲が完成したら、これを人に聴かせるなりゲームに使うなりしましょう。ですからファイルタイプを 扱いやすいように変更する必要があります。
 先ずMIDIファイルの場合、ファイルサイズはかなり小さいです。が、前述したように再生する環 境、つまり再生する人が所有している音源の種類によってかなり曲が変わってきます。
 wavファイルの場合。これを作るには、シーケンスソフトの録音機能でMIDI演奏したものを録 音し、それをオーディオデータに変換します。また、ソフトシンセによってはwav変換する機能の付 いたものもあります。これは確実に作曲者が意図したまま聴かせることができますが、ファイルサイズ がでかい。ものすごくでかい。
 MP3は一般にも普及したファイルタイプですね。これは、シーケンスソフトなどに付随したwav からMP3に変換する機能を使うと良いでしょう。ただ、MP3のフォーマットには特許がありますの で、配布される際はご注意を。
 CD−DA形式は、いわゆるCDオーディオのタイプです。CD−Rのライティングソフトには普通、 wav形式のファイルをCDオーディオとして焼く機能が付いていますから、これを使って音楽CDが 作れます。この場合、利用できるwavはサンプリングレート44.1kHz、量子化ビット数16b it、ステレオタイプという条件があります。

〜ちゃうんねん〜
 いや、分かってるねんで?ええ、分かっています。皆さんはもっと別のことを知りたいのだと。ちゃ うんねん。いや、分かってます。
 皆さんが本当に知りたいのは、もっとこう・・・「どういうコード進行なら良いんだ?」「ドラムパー トはどんな風に作るの?」「伴奏はどんなのを作れば良い?」・・・etc。きっとそうなんですよね? 作曲の大本のような、そんな部分が知りたいんだと思います。しかし、こればっかりは「こうしろ!」 って教えられるものではないんですよ。ちゃうんねん。しゃーないねん。こういうのを教えてくれるの はきっと、音楽の専門学校とかなんですよ。そんな理論付けた作曲法なんて知らないんです。私も独学 なんです。これはもう、個々人が色んな曲を聴いて聴いて聴きまくって、自分の中で成長させていくし かないんですよ。

〜終わりかい!〜
 結局曲作りの具体的な話はほとんどできませんでしたが、私が書けることといったらこういう話くら いしかないのです。
 「音楽を作る」という行為は、とても大きなことだと思います。ほとんど全ての人間にとって、音楽 とは生まれてから死ぬまで常に接してゆく存在でしょう。一時期だけ触れて、成長とともに離れてゆく ほど希薄なものではないのです。例えば貴方だって、学校を卒業すること、会社を退職すること、独身 を卒業することがあったとしても、音楽を卒業することは絶対に有り得ないでしょう?どんな環境の変 化が訪れても、聴くにしても作るにしても音楽と離れることはないのです。
 そんな音楽を自分の手で作るのですから、ひょっとしたら確立した作曲法など、一人の人間の人生に とってさほど意味を持たないことなのかも知れませんね。だとしたら、作曲法が分からないからといっ て曲を作ってみたいという意欲を放棄する必要などないでしょう。私でさえ、ここに書いたちっぽけな 知識と環境をもって、良いにしろ悪いにしろ曲を作ることができています。もし「何から始めたら、何 から揃えたらいいのか分からない」というのなら、ここで解説した最低限の環境をもって作曲を始める ことができますよ。少なくとも、曲を作る様々な道の一つではあると思います。

Blue Station Mail