† RPGに見るシステム設計 †
文責:猫森 皐

a prologue
 初見な方にははじめまして、いつも通りの方にはこんにちは。皐でございます。毎度当誌を御閲覧頂きありがとうございます。
 例年なれば絵の一つも描いて誤魔化している所なのですが、今回は個人的な事情によりそれを許さぬ状況に陥ってしまいました。そこで、今年は折角だからひとつ文面でモノを語ってみようかと存じます。
 さて、昨今当サークルにおいて、ある形態のRPGが密やかに流行している模様です。それら状況も踏まえまして、RPGシステムの「設計」について考察いたしました次第です。以下の「仕様上の注意」をよく御覧頂いた上、ダイスなど片手に、気楽にお読み流しくださいませ。

※原材料名 :論旨(主観、経験、偏見、懐剣)、オブラート(遺伝子組替えでない)、香料、色素
※用量・用法:毎蝕後に気が向けば適量
※賞味期限 :非表示にする
※保存場所 :幼児の手の届かない冷暗所に保存しても構いません。


0/用語解説
PL:ゲームを遊ぶプレイヤー、セッションへの参加者のこと。
PC: プレイヤーキャラクターの略号。PLが専属して操作する(=憑依する)ゲーム中の登場人物。PLのつかないキャラは「NPC」と呼ぶ。いずれもパソコンではない。
GM: ゲームマスター。シナリオを用意してPLに対応し、PC及びNPCを管理し、シナリオを進行させる係。そのセッションにおける神様。場合によって人だったり機械だったりする。
RPG: Role Playing Game(役割演技遊戯)。PLが各PCの役割を演技し、GMの提示するシナリオ上で活躍を疑似体験するゲーム。心理療法としても注目されているらしい。GMを人間が担当し、ダイスやカード等の乱数発生器でゲーム性を持たせつつ対話によって進行させるものを、特にテーブルトークRPG(TRPG)と呼ぶ。
RPG(R): 登録商標「RPG」。某社が商標化してしまった、コンピュータゲームジャンルの一形態。主に一本道シナリオを既定キャラで進行させる、ザコ虐殺系おつかいゲーム。


1/アカシックレシピ

 最初に、RPGゲームシステムに要求される要素について考えてみます。

 ゲーム作成にあたって、まずはそのプレイスタイルを指定しておく必要があります。多人数向けか一人用かで勝手は違いますし、テーブルトークかコンピュータかではかなりの仕様変更が見込まれます。場合によってはオンライン化するかなんて事もあるかもしれません。製作能力と提供目的とも相談して決めましょう。

 ゲーム内部の方に目をやってみます。世に幾多と出回っているモノを見渡して、考えておくべきと思われるのが「物理法則の存在」、またその確かさです。舞台が宇宙のような特殊な背景で無ければ、空中のリンゴはたいてい下に向かって落ちますし、通常の生命は傷をつけられればダメージとなるでしょう。PLに違和感を与えずにゲームをプレイさせる上で、この「現実世界に即した処理」は大きな助けになります。反面、現代世界の常識がどこまで通用するのかを、PLにしっかりと知らせておかなければなりません。魔法など、特殊な効果をどのように理屈付けるのかも考えておいた方が良いでしょう。
 当然の事ながら、現実の全てを忠実に再現するルール作成は不可能です。なので、リアル指向システムであっても妥協は必要です。どこまで突き詰めるか、またどこまでは「やりたくない」かは企画者の趣味とも言えます。──戦闘の結果、その場に何本の指が転がってるかなんて、ルール化したくないでしょう?

 次に、この現実味を破壊するであろう不自然さ、つまり色んな意味での「ゲーム性」をどの程度表に出すか、ですね。常人とPCが別次元の生命強度を持つ、PCは風邪を引かない、宿一泊で骨折が快復する、などがこれに該当します。これらは数字ばっかり見ていた結果生まれた、言うなればシステムバグの一種でしょう。
 ゲームは楽しむものですから、事象は多少ハデに動くぐらいが丁度良いのかもしれませんが、やりすぎるとギャグになってしまう諸刃の剣なので程々に。
 著者はコンピュータRPGによく見られる「主人公は、常人が100回死んでお釣りがくるダメージを受けても平気で生きてる」様子に大きな違和感を感じているのですが、ゲーム世界において見栄えを取るかリアルさを取るか、というトレードオフについては全て企画とゲームデザイナーの意向に拠ることとなります。どちらが重視されるべきとは言いませんが、ここで決定した方向性は最後まで貫くべきでしょう。

 同時に「プレイアビリティー」、すなわちプレイのし易さやその操作性も検討しなければなりません。進行を機械に頼らない場合は特に気を使う必要があります。こだわり抜いてルール化した判定方法やコマンド入力方式が、面倒極まる手順を要するものではゲーム進行の妨げになり、爽快感も失われてしまうのです。

 最後に「世界観」というものがあります。近年のRPGは、世界設定とシステムとを同時に提供するのが半ば定石となっており、それが個性的且つ魅力溢れるゲームを作る基盤ともなります。世界が既に固まっていれば、物理法則からキャラクターの生活水準、世界地図から行政形態に至るまで、効率良く決定していくのではないでしょうか(舞台によっては「現代社会」の一言で片付けることも出来ます)。
 それに、魔法などの特殊ルールにどの程度重きを置くか見当つけることができ、システム構築にも一役買うことでしょう。たとえば魔法メインの世界がゲームの舞台ならば、特別なルールがシステムに織り込まれるはず。もしかすると「魔法ルールこそがほとんど」のシステムが完成するかもしれません!

2/主眼の直視

 で、ここまでを視野に入れておいた上で、目的を絞ることをお勧めします。平たく言えば「どんなRPGを創りたいのか」ということですね。ゲーム性だけあっても物語性が無くてはRPGとしての体を成しませんし、リアルさを追求した汎用システムだけあっても、それだけでは魅力に乏しいものがあります(実際、汎用性を究極の目的とするシステムも存在しますが、それはそれで膨大なサポートを要するようです)。
 戦闘、謎解き、交渉、魔術……沢山のポイントのどこを強調したいのか、自分が目指す「ゲームの在り方」はどこにあるのか。そしてプレイヤーに何を楽しんでほしいのか──それを決めれば、パラメータの種類やシステムの根幹に方向性が与えられることと思います。



3/削る躯

 基本方針が決まれば、ルール作成に入ります。焦点となる部分は念入りに、汎用性を求めるならば全ての方向に対して均等に体系付けていかねばなりません。最初にストーリーありき、な場合はそれを再現する方向に尽力しましょう。
 目玉ルールがある場合にも、それ以外の部分をちゃんとサポートできるようルール化しておく事をお忘れなく。戦闘メインだからと言って、戦闘ルールしか存在しないシステムはRPGとは言えません。たとえば一日の移動量、罠の発見や物品の鑑定、落下ダメージや時間回復などが挙げられます。また、用意した全てのパラメータをできるだけ同程度に活かせるルール作成を心掛ける方が良いと思われます。
 あらゆる状況に対してルールを作っていくのは大変な労力が要求されます。ですから、ある程度法則性を持たせて「ルールを状況に対応させる」ように応用をきかせるのも一つの有効な手段です。プレイヤーもその方が覚え易いでしょう。


4/判定衝動

 さて、ここまで出来てから、或いはここに至るまでに確率的な検討もしておくと良いかもしれません。乱数幅とその基準値の割合に問題は無いか。彼我の戦力差がある場合の行為の成功率は不自然ではないか。ここらは必ずしもしなければならない事ではありませんし、実際プレイするまでは体感も出来ません。しかし、おおまかでも検討をしておけば、結果は悪くないものになりますよ。

5/「試」。

 およそのルールが固まったら、テストプレイを頻繁に行い、意見を募りましょう。 ゲームは何事においても、実際に体感してみないことにはなんとも言えないものです。試用後に不満が出るならば、これ幸いと修正しましょう。……勿論、それがゲームの根幹を揺るがすクリティカルなものでなければ、ですけど。
 それから、量産データ──例えば個々の武器性能、個々の魔法性質、特定のキャラクター性能など──についてはこの段階で言及する必要は無いと思います。基本システム、言うなれば「世界を支配する法則」を優先して規定しさえすれば、データはそれに即して設定していけば良いのですから。もっとも、世界設定に深く関わるアイテムなどはその限りではありません。

6/或る演劇

 ルールが決まれば、システムとしてはほぼ完成したと言えるでしょう。 ここに来てようやっと「細かいトコ」に着手出来るのです。その世界で普通である種族・道具・技術が標準として定められていれば、PC・専用アイテム・技能がそれに比較してどの程度のものであるか理解し易く、逆に、PCをどの程度の存在として作るかを考える基準としても使えるわけです。
 シナリオは、その世界で出来る範疇で何をやっても良いです。むしろストーリー性のために多少は無理しても良いんじゃないでしょうか。……PLに理不尽な感を与えさえしなければ。
 で、サンプルが出来たらこの後も延々と、テストプレイやバグ取りを継続していくわけです。ドロナワで設定した世界だと、対応が難しくなっていくことでしょう……。

7/果てずの意思

 シナリオを作ってみて、新たにルールを付加したくなる場合もあるかもしれません。従来のゲーム性を破壊しないよう気をつけさえすれば、サプリメントとして搭載するのも良いでしょう。ただし、新システム追加や御都合主義も度が過ぎれば評価が落ちることを覚悟しましょう。
 あまりに方向性が変わるようなら、いっそ新しくシステムをデザインするのも選択肢の一つです。

an epilogue

 RPG(R)がいつからか「ロールプレイ」とは別の方向へ進んでいるように感じられる今日この頃、著者の趣味も手伝ってTRPG寄りの解説になってしまいましたが、如何だったでしょうか。……いや、嫌いじゃないんですけどねアレも。ただもう少しの現実味が欲しい処──結局それが高じて自分でシステムを作るようになっていた小生でありますが。

 世界をひとつ創り出すのは大変ですが、とてもやり甲斐のある仕事です。もしコンピュータでRPGを作ろうと思えば、システムに加えて素材準備やプログラム作成の手間もかさむ、大変な作業になることでしょう。しかし、RPGの基本は「想像力」です。TRPGならばシステムとダイスさえあればゲーム本体は完成なので、絵も音も不要です(笑)。創作意欲のある方は、一つ片手間に挑戦してみませんか?きっとその世界で、もっと空想を広げたくなって行くことと思います。

 さて、私の"世界"はどこまでカタチを持ってくれるものか……
2003.神無月 晦   

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