貧弱なオーディオ環境を改善しよう2006 〜ヘッドホンアンプ自作のススメ〜
学部3年F科 賀村崇広
0.序章
iPod shuffleや同nanoが大ヒットし、昔から高い人気のウォークマンなどとともに「音楽を持ち歩く」ことがごく当たり前になってきました。これらはパソコンとつないで、パソコンに取り込んだ音楽データを機器に転送する形をとります。すると必然、パソコンの中には多くの音楽データが溜まっていくので、家にいる時はパソコンにヘッドホンなりスピーカーなりをつないで音を出すことも多くなります。
ポータブルオーディオやノートパソコンは目を見張るような電池の長寿命化が進み、高性能バッテリーの開発と合わせて使用時間がどんどん延びています。部品や回路の高集積化で外形も小さくなり、持ち運びにもとても便利です。
しかし、半導体は取り出す電流が多くなればなるほど諸特性が悪化します。音について言えば歪みやノイズが多くなったり再生できる周波数帯域が狭くなったりします。最近は省電力化のせいで音響回路に割り当てる電流・電圧がえらく削られていて、大きな電力を流す能力の無い回路が増えてきました。特にヘッドホンへの出力回路は貧弱で、出力上限が低いために相対的に回路から電流を多く取り出すことになり、良い音が出ないのです。試しにお手持ちのCDをパソコンにセットして、イコライザ付き再生ソフトで低音を強めてみてください。ちょっと低音を持ち上げただけで音割れが発生しませんか?
もちろん音質重視のサウンドカードを入手してデスクトップパソコンに取り付けたり、オプティカル対応のオーディオ機器をパソコンの光出力とつないだりすれば良い音は出せるのですが、ここは一つ趣向を変えて「音質がよくなるようなアンプを自作しちゃお」という趣旨でやってみたいと思います。自分で作ったものが動いてくれるのはなかなか嬉しいものですよ。
1.方針と理屈
※理論なんていらない、ただ作りたいだけだという方はこの章を丸ごとすっ飛ばして構いません。
トランジスタが主役となる、電池駆動の本格電子工作です。でも理論レベルとしては基礎、工作レベルもそれほど高くはありません。ハンダゴテすら使いません。さすがに電気の何たるかを全くなーんにも知らないとなると手こずるかもしれませんが…。でも用意する工具や製作の手間がなるべく少なくなるようにしたつもりです。後は分からないことを調べる能力とやる気だけ?
アンプ(amplifier)とは増幅器のことです。では増幅とは何なのかということですが、一言で言えば「小さな信号を大きな信号にすること」です。でもこれ、ちょっと表現が抽象的過ぎます。信号をなぜ大きくする必要があるのか、というか信号が大きい小さいとは何なのか、そもそも信号とは何なのか、これらを知らなければ増幅という言葉を理解できません。
信号とは(特に人間にとって)ある一定の意味を持つ波の強弱の羅列のことです。音声信号は空気の振動であり、もっと正確には圧力の疎密が時間で変動する波です。これをマイクなどで変換した電気信号は、振幅が時間で変化する電気の流れ、つまり交流電流です。
いわゆる信号と呼ばれるような電流は、その波形で情報を形作ってはいますが、とても小さなエネルギーしか持っていません。例えばマイクで音声を電流に変換したままでは、原理的にマイクに入力された音量以上の出力でスピーカーを鳴らすことはできません。そこで信号の振幅を大きくする「増幅」という作業をするわけですが、「振幅を大きくする」といっても増幅器の中からエネルギーが生まれてくるはずがありません。増幅の本質は「外からエネルギー、すなわち電源を供給してもらい、入力された信号の形を参考にして、入力信号と同じ形で大きな振幅の信号を電源から作り出す」ということです。
トランジスタは増幅器を構成する最も基礎的にして中核を成すデバイスで、今回はこれを用いて増幅器を組み上げます。
さて、実際に回路を見てみましょう。「トランジスタなんて全然仕組みも動かし方も分からない」という方も多いと思うので、回路の形と使用する部品の定数は全てこちらで決めてしまいました。電子回路は分からないけどモノ作りは好き、という方は図の通り作ってみてください。
もちろん理論の説明はきっちりしますので、電子工作入門として取り組まれる方も参考になるかと思います。
図1:回路図と各素子の定数。画像をクリックすると別ウィンドウで開きます
これが今回製作する回路です。エミッタフォロワと呼ばれるもので、電圧については増幅をせず、電流増幅…大きな電流を取り出しても電力の供給量が不足しない(望まない電圧降下が起こらない)ようにするトランジスタの超基本回路です。電圧振幅を変えないのは、ヘッドホンを直接つないでも音が出るような大きさの信号が出力される機器につなぐことを想定しているからです。なお、この図は片方のチャンネルだけなので、ステレオ再生するにはもう一組同じ回路が必要です。
そもそも音が悪くなる原因は、音響回路の内部抵抗が大きくて、せっかく信号を増幅したのに内部抵抗に電圧がかかってしまって負荷(=ヘッドホンのボイスコイル)に十分な電圧がかからないことによります。これがどの周波数でも平均的に能力不足(笑)であれば単に音が小さくなるだけなのですが、周波数によってムラがあると元の音からかけ離れてしまいます。そこで大きな電流を流すことのできるトランジスタを用意し、十分な電圧と電流を流してやることで、どの周波数でも電圧が下がることの無いようにしてやろうというわけです。言い換えればこれは機器の内部抵抗を下げる働きをします。ヘッドホンから見て内部抵抗が十分低ければ、電圧は全てヘッドホンにかかってくれるので、十分な音量が得られるということです(図2)。
図2:オーディオ機器の等価回路とアンプ。入力・出力抵抗はそれぞれ
入力インピーダンス・出力インピーダンスという言い方が一般的
回路の説明に移ります。
電源電圧は最も簡単に手に入る直流電源ということで、単3乾電池2本を用いることにしました。これをR1、R2二つの抵抗で分圧してトランジスタ(以下Tr)のベースにつなぎ、ベース−エミッタ間の電圧VBEを0.6〜0.7V以上にします。
※図ではVBE=0.7Vとしています。ディジタルテスターをお持ちの方は試しに入手したTrのVBEをダイオードレンジで測ってみてください。
抵抗の種類を少なくするため R1:R2=1:1 としてベースの電位VBを1.5Vとしました。VBからVBEを引いた電位がエミッタの電位VEになりますから、VEは 1.5V−0.7V=0.8V です。VBEが持つ −2.5mV/℃ という温度係数を考えると温度安定度の面からは VE≧1V としたかったのですが、それほど発熱する回路でもないのでこのくらいであればOKということで。
VEが決まったのでエミッタに流す電流(≒コレクタに流す電流)を決めます。負荷であるヘッドホンのインピーダンス(簡単に言えば抵抗値のこと)は数十Ωが多いので、ここでは16Ωを想定します。ヘッドホンのカタログを見ると、最大入力は数十mWという低めの値です。また私のポータブルCDプレーヤーの最大出力は5mWでした。ここから電力 P=VI=V2/R=I2R という式を用いて必要な電流とかかる電圧を計算すると 電流:√(0.005/16)=0.018A=18mA 、電圧:√(0.005×16)=0.28V となりますが、5mWといえどもそれなりに感度が高いヘッドホンを使えば爆音になってしまいます。そんなに音量は出さないだろうということで2mWで計算しなおすと 電流:√(0.002/16)=0.011A=11mA 、電圧:√(0.002×16)=0.18V。この値は実効値なのでそれぞれ√2をかけて、電流:16mA、電圧:0.25Vです。この回路ではエミッタ電流は必要な電流よりだいぶ多く流さなければなりませんが、消費電力のこともあるので16mAよりもやや多い24mAとしました(本当は33Ωという手に入りやすそうな数値の抵抗を入れてみたら16mAより多くなったので良しとしたのですが)。
では果たしてそれでよいか逆算してみましょう。下の図3を見てください。
図3:エミッタ電流IEと波形のクリップ。Rは負荷(ヘッドホン)のインピーダンス
左が小振幅、右が大振幅を入力して波形がクリップ(波の頭が平らになる)したところです。こうなると音がバリバリに歪みます。
信号はVEを中心に正負に振れます。まず正の方向について、VE〜電源電圧間を超えるような信号を入力しても、原理的に電源電圧を超えて振れることはできません。この回路について言えば VE=0.8V、電源電圧は3.0V ですからその差は2.2Vです。つまり入力波形のピークが2.2Vを超えるとクリップすることになります。今回はかなり余裕がありますし、正方向のクリップについてはVEを下げるなり電源電圧を上げて再計算するなりで対処できるのですが、問題は負の方向です。
「エミッタ電流は必要な電流よりだいぶ多く流さなければならない」と言ったのは、信号が振れることのできる余裕が (RE//R)×IE 分だけしかないためです。図4で詳しく見てみましょう。
※RE//R とは REとRの並列接続 の意味。参考として、並列接続の合成抵抗をRallとすると、1/Rall=1/(1/R1+1/R2+…)
図4:エミッタ電流IEとエミッタ電位VEの関係
図4の左の回路はトランジスタを定電流源とみなした時の回路そのままです。この定電流源はIEの設定値を24mAとしたので、最大でも負荷に24mAしか流すことができません。
これを交流的な見方でとらえてみます。Cは交流に対してただの導線として振舞うので、Trにつながっている負荷はREとRを並列接続した値になります。この合成負荷はGNDにつながり、そこにIEが流れるので両端の電圧降下は (RE//R)×IE となります。信号のピーク電圧は、信号が振れる中心であるVEからこの電圧降下を引いた値、0.8−(33//16)×0.024=0.54V を下回ることはできないのです。
上で最大出力電力を2mWとして信号の電圧を計算したら、振幅の最大値は0.25Vでしたね。これを当てはめると0.8−0.25=0.55V となり、なんとか範囲内に収まっています。よってREは33Ωに決定。場合によっては抵抗の値を変えては計算をして、また値を変えて…とカットアンドトライを繰り返すことになります。
さらに1:1としただけで具体的な数値を決めていなかったR1とR2を決定します。エミッタ電流(≒コレクタ電流)の1/hFEが、R1とR2に流すべき最低限の電流です。でもこれだけしか流さないと、大きな振幅の信号が入力された時にVBが変化してしまい、同時にVEも変化して波形のクリップ(音割れを起こす)の原因になります。これを防ぐためにR1とR2には エミッタ電流/hFE の10倍以上の電流を流します。パワーTrのhFEはそれほど高いものは無いので、今回は150ほどとして設計しました。0.024/150×10=0.0016A=1.6mA がR1およびR2に流すべき電流なので、電源電圧 3.0/0.0016=1875Ω 、R1とR2は直列接続(間にTrのベースがつながっていますがここにはほとんど電流が流れ込まないので無視)なので R1=R2=910Ω としました(937.5kΩという抵抗は市販されていないので近い値を選定)。この時R1とR2に流れる電流を再計算すると 3.0/(910+910)=0.0016A=1.6mA 、先ほど計算した1.6mA以上なのでOKです。もっとhFEの高いTrであればR1とR2をより高い値にして、入力インピーダンスを高めることができます。
次は入力と出力に接続されているC1とC4の値を決定します。もともとコンデンサをつける理由は入力/出力の機器に直流電流が流れ込まないようにするためです。交流を出力するオーディオ機器の出力端子に電流が逆流してはまずいですし、ヘッドホンやスピーカーも直流電流がずっと流れ続けているとコイルが焼き切れることがあるのでカットします。この働きをするコンデンサをカップリングコンデンサ(結合コンデンサ)と呼びます。
さて、直流成分をカットするのはいいのですが、コンデンサは抵抗と一緒になってハイパスフィルタ回路を形成します(図5)。
図5:カップリングコンデンサによる入力と出力のハイパスフィルタ
ハイパスフィルタのカットオフ周波数f0は、f0=1/(2πCR)で表されます。よくあるヘッドホンの再生周波数の下限を見ると、だいたい数Hz〜十数Hzくらいなので、今回は5Hzを出すことを目標にC1とC4の値を決めます。
※カットオフ周波数:信号の振幅特性が 3dB 低下する(=1/√2倍になる)周波数。グラフは後述。
式を変形して C=1/(2πf0R) とします。
まず入力のC1について。交流的には入力信号がR1を通じて電源に、R2を通じてGNDに流れると考えると、左の式のRは R1//R2=455Ω であり C1=1/(2π×5Hz×455)=7.0×10-5F=70μF となるので、C1がこれ以上大きければ5Hzの信号も通すことができます。市販されているコンデンサで70μF以上のものは100μFがあるのでこれを用いました。
出力のC4はRにヘッドホンのインピーダンスである16Ωを代入(直列に入るはずの回路の出力インピーダンスは数Ω程度なので無視)して C4=1/(2π×5Hz×16)=2.0×10-3F=2000μF となります。これ以上で近い値は2200μFなのでこれにしました。
出力側だけ、信号の周波数と入出力比のグラフ(図6)を載せておきます。
図6:信号の周波数fと信号の入出力比Vo/Viとの関係(logスケール)
これは図5の右側の回路について、Trが出力する電圧――負荷に入力される信号電圧(IN)をVi 、ヘッドホンであるRにかかる電圧(OUT)をVoとします。交流についてCのインピーダンスZCは ZC=1/jωC で表されます(ω=2πf、j は虚数単位)。信号周波数 f が低い時にはCが高抵抗と同じになり、ほとんど電流が流れません。つまりRにかかる電圧が低くなるのでVoは小さくなります。f が高くなればCは導線と変わらなくなり、よく電流が流れて電圧はほとんどRにかかることになります。Voを式で表すとVo=Vi×R/(R+ZC)
=Vi×R/(R+1/jωC) となり、入力と出力の比 Vo/Vi の絶対値は
|Vo/Vi|=|R/(R+1/jωC)|=16/√(162+(1/(2πf×0.0022))2) です。グラフにする時は、入力と出力の電圧比のlog(=常用対数)をとって20をかけ、デシベル表示にするのが一般的です。グラフは「gnuplot」という有名なグラフ描画ソフトのWindows版を用いて作成しました。コマンドは x を周波数として0.1Hzから50Hzまで表示させるので
plot [0.1:50] 20*log10(16/(16**2+(1/(2*pi*x*0.0022))**2)**0.5)
と打ちました。
コンデンサは容量が大きいほど低い周波数を通せるので、予算とケース内のスペースが許す限り大きなものを用いましょう。
最後に電源とGNDを結ぶC2とC3について説明します。
エミッタフォロワは出力が入力に対して同相である上に周波数特性がよく、電源ラインに高周波ノイズが乗るとエミッタからベースへ正帰還がかかってすぐに発振してくれます。うはww 発振すると無駄に電力を喰うだけでなく素子を熱破壊しかねないので、ノイズは素子に入る前に全てGNDに落としてやる必要があります。この働きをするコンデンサをバイパスコンデンサ(略してパスコン)と呼びます。
一般に小さい容量・小さい外形のコンデンサは高い周波数をよく通し、大きな容量・大きな外形のコンデンサは低い周波数をよく通します。これはコンデンサの中の導線がインダクタ(コイルの成分)として働くことによるもので、中に箔を巻いた構造の電解コンデンサなどはコイルと化した箔が高い周波数をほとんど遮ってしまいます。これではノイズをGNDに流せません。よって大小のコンデンサを併用して、高周波と低周波のノイズをしっかりGNDに流すのです。C2とC3の値は一般的に使われている値としました(深く考えてない)。
電源とGNDを結ぶなら左右のチャンネル分なんていらないじゃないか、とも思いますが、高周波は数mmの導線の長さが効いてくる世界なのでTrのコレクタとR3の端を最短距離で接続します。電池なのでそもそもパスコンは必要ない気もしますが、念のため……。
2.製作
回路図(図1)の再掲:クリックで別ウィンドウが開きます。
以下に材料のリストを示します。なんといっても私が実際に作っていないので抜けがある可能性が非常に高いです。
部品 素子名 定数 備考 個数 購入できる店の例 抵抗 R1、R2 910Ω 1/4W 誤差1% 金属皮膜など 4 千石電商 海神無線 R3 33Ω 1/4W 誤差1% 金属皮膜など 2 千石電商 海神無線 コンデンサ C1 100μF 16V ブラックゲート標準 2 海神無線 若松通商 C2 0.1μF 50V 積層セラミック 2 千石電商 秋月電子 C3 47μF 6.3V アルミ電解 2 千石電商 秋月電子 C4 2200μF 16V ブラックゲート標準 2 海神無線 若松通商 トランジスタ Q1 2SC3421 (なるべく電流を多く流せるもの) 2 千石電商 ステレオミニジャック IN、OUT 2 千石電商 トグルスイッチ 1回路1接点(ON-OFF) 1 千石電商 プラケース タッパーとか 1 千石電商 秋月電子 電池ケース 単3×2本、リード線つき 1 千石電商 秋月電子 ブレッドボード EIC-801 1 秋月電子 ブレッドボード用ジャンパ線 EIC-J-L 1 秋月電子 スズメッキ線 φ1.3(=直径1.3mm) 1m 1 千石電商
千石電商 http://www.sengoku.co.jp/ さすがに品数豊富、安い
秋月電子 http://akizukidenshi.com/ いろいろめずらしい物も売っている有名店
海神無線 http://www.tokyoradiodepart.co.jp/KAIJIN/ 抵抗とコンデンサの高級専門店 店主さんの受け答えがとても丁寧
若松通商 http://www.wakamatsu-net.com/biz/ 汎用から高級品まで豊富 ちょっと高い?
その他、ラジオセンターやラジオデパートの各店舗でもそろえることができます。店によって値段が結構違うのでよくよく歩き回りましょう。定休日に注意(全部秋葉原の店。大阪などは分かりませんごめんなさい)。通信販売を行う店で購入してもよいでしょう。
抵抗は通常の金属皮膜抵抗を指定してはいますが、音響用と呼ばれるお高い抵抗を入手できるならその方が断然よい音がします。普通のものを使う時は、とりあえず安いカーボン抵抗は避けましょう。大電力(1/2Wとか1Wとか)の方がいい音がする??
コンデンサも信号ラインに直列に入るカップリングコンデンサ(C1、C4)は音響用のものを使います。ここではジェルマックス(製造はルビコン)のブラックゲートというブランド物コンデンサを使いますが、他にもニチコンのMUSE、三洋電機のOSコン、日本ケミコンのオーディオ用などがあります。C2は高周波特性のよい積層セラミック、C3は普通のアルミ電解コンデンサで構いません。耐電圧はコンデンサにかかる電圧の1.5〜2倍を目安に選んでください(ブラックゲートは「標準」だと16V、積層セラミックは50Vが最低のようです)。
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図7:千石電商の金属皮膜抵抗 100本300円とコストパフォーマンスは抜群 |
図8:海神無線で購入したBlackGateコンデンサ 性能も値段もアルミ電解を凌駕する |
図9:アルミ電解と積層セラミック 失敗を考え、部品は多めに買うとよい |
トランジスタは私がよく使う中で 2SC3421 という種類を選びました。コレクタ電流 IC=1A とそれなりに大きな電流を流せる素子です。40個ほどhFEを測ってみたところ、6割が180程度でした。実際NPN型なら2SCでも2SDでもいいかもしれません。大電流を流せるトランジスタを選ぶと低音がよく響きます。種類をいくつか買って比べてみるのも面白いかもしれません。データシートは東芝セミコンダクターにて型番“2SC3421”で検索をかけるとPDFをダウンロードできます。どの足がどのピンかも記載してあります→参考リンク
この工作のキーパーソンであるブレッドボードは、部品の足を挿す穴と、その中でつながった板バネで部品をハンダなしに電気的に接続できる優れものです。最初は穴がどこでつながっているのか分からずに戸惑いますが、下に結線図を載せておくのでにらめっこしてください(ぇ 下の参考文献で示したURLも参照。抵抗やコンデンサの値の読み方もそちらにあります。
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図10:左から 2SC3421(東芝)、 2SD1163A(日立ルネサス)、 2SD1763(ローム) 店頭で投げ売られていた彼らが 果たしてどんな音を奏でるだろうか |
図11:ブレッドボード(大)とガラスエポキシ基板(中央) 今回使うブレッドボードはもっと小さいのだが、写真が… |
図12:ブレッドボードの結線図 +と−のラインは上下直通、 他は横5穴で1グループ |
ブレッドボードの配線には普通の導線(直径0.5mm単線)も使えるのですが、ブレッドボード配線専用の導線というものが存在します(図13)。もっとも挿しやすい太さで皮膜がついており、穴の間隔に合わせて予め曲げてある導線です。色分けをしてあるので判別も容易。
回路図にスイッチを描くのを忘れた_| ̄|○ トグルスイッチはなるべく小さいものを使います。あまり大きいと内部の接点の接触抵抗でロスが生じるためです。図14の写真では2端子でON-OFFのみのスイッチですが、3端子でON-ONのものも端子を1つ開放しておくことで使えます(ON-OFF-ONと3段階に切り替えられるタイプはここではミスマッチ)。
ステレオミニプラグは製作には用いませんが、端子の説明をするため写真をとりました。ゴムで3つに仕切られた端子の根元、一番面積の大きい部分がGNDで、真ん中がR、先端がLの入出力です。これを踏まえて購入したステレオミニジャックの極性を調べてください。写真のようなスケルトンタイプだと分かりやすいですね。
スズメッキ線はスイッチやジャックの端子につないだ導線を「圧着」する材料として使います。スイッチの端子の穴に導線を通して巻きつけ、さらにその上からスズメッキ線を巻きつけてラジオペンチで握りつぶします。そのため、スズメッキ線は作業がしやすい範囲内でなるべく太いものを使うのが望ましいと言えます(写真の線では少し細すぎる)。スズメッキではなく銅でも可。
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図13:ブレッドボード用のジャンパ線 挿しやすく、ビニール皮膜でショートの心配も無い |
図14:左上からトグルスイッチ、ステレオミニプラグ、 ステレオミニジャック、スズメッキ線、電池ボックス |
工具はラジオペンチ、カッター、きり、ドライバーセットがあればなんとか作れます。あると便利なのはニッパー、紙やすりとディジタルテスター(DMM、Digital Multi Meter とも言う)。ドリルorピンバイス、リーマー、金工ヤスリ、ハンドニブラがあればアルミケースでも加工できます。ディジタルテスターは秋月電子で2〜3千円で売っていたりするので、ひとつ買っておくと何かと重宝します。ドリルは簡易的なものであれば、なんと100円ショップで買えてしまったりします。
ハンダゴテも30Wのものが1000円程度で買えるので、1本持っているのもいいかもです。ハンダ付けできれば回路の信頼性がぐっと上がります。その時はブレッドボードではなくガラスエポキシのスルーホール基板がオススメ(秋月電子に安くて良い基板があります)。
ここからは実際に私が作っていないのでなんとも説明しづらいのですが、ブレッドボード上の部品の配置(実体配線図)だけ示します。
図15:回路の実体配線図(パスコンを除く) クリックで別窓に表示
……これ、もしかしたら切った部品の足だけで配線できるかもしれません(ヲイ その場合はブレッドボード用ジャンパ線は買わなくてもOKです。スイッチやジャックとつなぐ時は、直径0.5〜0.7mmのエナメル線でも使ってください。
本当はトランジスタのコレクタと−ラインにつながる910Ωの端をパスコン2つでつなぐのですが、これを図に追記するとごちゃごちゃになるので描いていません。積層セラミックを 9-d〜−9 (9行d列の穴〜−ラインの上から9番目の穴) と 21-d〜−19、アルミ電解を 9-c〜−10 と 21-c〜−20 にそれぞれ挿してください。アルミ電解は足が届かないようなら一旦他の穴に足を挿して、その穴を−ラインと導線でつなぐやり方でも構いません。
なお、図では33Ωが6番目や16番目につながっていたり、910Ωが8番目や18番目につながっていたりしていますが、本来GNDに落とすべき線はなるべく1点に集めるようにするのが正しいやり方です。導線といえども現実には抵抗分がありますから、そこを大電流が流れると各ノード(節点。回路の交点)で電位が違ってきてしまいます。GNDは本来0Vのはずなのにこれは望ましくありません。さらに、信号とGNDのラインで大きな輪ができると、そこに磁束や電磁波が飛び込んで電磁誘導を起こし、ノイズを発することがあります。輪を1mmでも小さくするためにもGNDはまとめ、行きと帰りの信号は隣り合わせに配線するべきです。
プラケースの穴あけは、きりで穴を開けてからマイナスドライバーでぐりぐりと広げていきます。バリが出ると思うので、毛を剃るようにしてカッターでバリを削ぎ落とします。ドリルやリーマーがないとなかなか大変な作業です、これ。穴が大きすぎるとケースがパアなので、少し穴を広げたら部品を当てて、直径を確かめながら作業してください。
最後にケースに組み込みますが、今回使うブレッドボードは裏に粘着テープがあるので、剥離紙をはがしてケースに固定します。電池ボックスの固定は自分で両面テープを用意しなければなりません。どちらもネジ穴があるので、ホームセンターなどでネジとナットとワッシャーを買って取り付けるのもよいでしょう。
下の参考文献に示した「ハンダ要らずのヘッドホンアンプ製作」というページは、今回の工作を行う上でとても参考になります。ぜひ目を通してみてください。
3.参考文献と使用ソフト
定本 トランジスタ回路の設計 (鈴木雅臣 CQ出版社)
ハンダ要らずのヘッドホンアンプ製作 http://www.geocities.jp/aiwax122/breadboard/breadboard.html(アイワX122改造&アンプ製作)
抵抗器 - Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%B5%E6%8A%97%E5%99%A8
コンデンサ - Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%B5
ブレッドボードの使い方ノウハウ http://speana-1.hp.infoseek.co.jp/breadboard/breadboard.htm(SPECTRUMの館)
初歩 gnuplot 入門 http://auemath.aichi-edu.ac.jp/~khotta/ghost/gnuplot.html回路図エディタ BSch3V http://www.suigyodo.com/online/(水魚堂 ONLINE)
フォトレタッチソフト JTrim http://www.woodybells.com/(WoodyBells)
グラフ描画ソフト gnuplot http://www.gnuplot.info/(gnuplot home)
あー、「Windowsでゲームを作る」がコンセプトのサークルでハードウェアなんぞを弄っています。さらにF科という学科は専門が化学。何でこんなところにいるんだろう自分。
最初は音楽を作ると息巻いてこのサークルに入ったはずが、今やっている事といえば変なコラージュを作ったり部室のちょっとした物の整備をしたりするだけです(ゲームパッドの埃とり、アンプ・スピーカーの掃除など)。自分の得意分野で少しでもわずかでもサークルに関係ありそうなことを書かねば…と思ったらこんなネタが出てきました。でもやっぱりゲームと直接は関係ないですね。うーむ…