みんなで難関ゲームに挑戦
〜クロックタワー編〜

M1年 滝沢 洋平

小さい頃、よく友達とTVゲームで遊んだ。

対戦プレイができるものはもちろん積極的に対戦をしたし、たとえ1人プレイ用のゲームであっても、

友達と交代でプレイするなどの協力をして、クリアにこぎつけたりしたものだ。

今でもゲームはやっている。が、1人用のゲームを複数人でやる機会はめっきり減ってしまったように感じる。

もっとも僕だけかもしれないが、最近友人とやるゲームはもっぱら対戦物ばかりだ。

例えば「スーパーマリオ」を「一回死ぬか面をクリアしたら交代ね!」とルールを作って複数人で遊んぶような、あんなプレイは久しくやっていない。

こういうプレイの仕方は、まだゲームが下手だった小さな頃の僕達にとってはなかなか有意なものだったと思う。

自分が失敗をしても上手い友達が次のステージを見せてくれる。

一人じゃあ気付かないことでも他の誰かが気付いてくれる。気付いたのにできなかったことは、やっぱり上手い友達が実現してくれる…。

友達と協力をするのがなぜかとっても楽しかったし、頼りにし、頼りにされる「仲間」ってのも、ちょっぴり誇らしかったんだ…。

そんな久しく味わっていなかった懐かしい感覚を、もう一度…。

 


よく死ぬホラーゲームは好きですか?

そんなわけで、SFCソフト「クロックタワー」を4人がかりでプレイすることにした。なぜクロックタワーなのかというと、

1.謎解き要素が多いらしい
2.よく死ぬらしい
3.ホラーゲーム

という理由から。

 

1はもちろん、コントローラーを握っていないときには頭でプレイヤーをサポートできるぜ!という、

要するに見ている側が一切暇にならないようにするためである。

普通のアクションゲームだと大学生ゲーマーは結構簡単に先に進む方法がわかってしまうため、謎解き要素は多い方がいい。

2はプレイヤーの交代が頻繁に起こった方が楽しめると思ったから。

そして3は…、このゲーム、1人じゃあ絶対にやらないと思ったから…。

こういう怖いゲームもやってみる気になるのも複数人プレイのいい所だと思うよ!

 

参加者は僕・O君・I君・M君の4人。

I君は小学校のときにこのゲームをやっていた経験者。もっともあんまり覚えていないとのこと。

今回は定番どおり、死ぬか本人が嫌になった時点で交代というルールで行うことにした。

なお、なるべくネタバレを避けるため、序盤以外は謎解き部分には一切触れません。

 

「クロックタワー」とは

これがどんなゲームなのかざっと説明すると、

主人公の少女ジェニファーが連れてこられた洋館は、巨大なはさみを持った怪物「シザーマン」が巣食う恐怖の館だった。
シザーマンをかわしながら館の謎を解いて脱出せよ。

という内容。

ジェニファーは普通の女の子で、シザーマンを倒すことはできない。

隠れたり特定の方法で一時的に撃退(奴はなぜか不死身)をしながら進めなくてはいけない。

また、ジェニファーは危機に陥った時にパニックボタンを連打すると、危機を一時的に回避することができる。

このゲームはマルチエンディング方式で、進行状況によりエンディングが変化するゲームである。

 

…とまあ、僕達4人が持っていた予備知識はこんなもので、古いゲームなので説明書なんかももちろんなかったりする。

 

死亡フラグが立った

スタートするとまずはオープニング。ジェニファーとその友達3人。さらに引率の先生の会話が始まった。

どうもジェニファー達は孤児院育ちらしく、お屋敷に引きとられるということでここにきたらしい。

先生が「とっても素敵なところよ。」といって指をさしてくれたが、入ったら生きて帰れそうもないような不吉な感じがすでに漂っている。

ジェニファーの友人の「私、この屋敷は好きになれそうにないわ。」の台詞には心底同意したくなった。

 

場面は洋館内にうつり、開始早々先生が部屋から出ていったところで本編がスタート。

一番手はO君だ。まずは操作の確認。

カーソルを動かして場所をYボタンで指定すると主人公が歩いていって調べてくるらしい。

L・Rでダッシュ。こんだけ分かればなんとかなるべ。

 

いなくなった先生を探すために廊下に出ると、さっきまでいた部屋から女の子の悲鳴が!いきなりかよ!

広間に戻ると明かりは消えている上に誰もいない。あまりの急展開にちょっと焦る僕達。

BGMが一切ないのが逆に怖い。

仕方なく適当に館の内部を探索していくが、館の廊下はボロボロ…。

僕だったらこんなところには引きとられたくありません。

 

途中にある部屋に入って探索をしていくと、なぜかTVが勝手につく。

地味な嫌がらせだが、見ている方はかなりビビッた。

さらに先の部屋に入って探索を続けていった所、インコが鳥かごから飛び出して襲ってくる。

手近なベッドを選択すると、なんとジェニファーはいきなり布団でインコを捕まえて黙らせた。

 

こいつ只者じゃない…。

 

同じ部屋をくまなく調べていくと、鏡から突然手のようなものが伸びてきてジェニファーの首を絞めてきた。

…あえなく死亡。ちょw

 

O君の一回目のプレイはここで終了してしまった。

何がすごいって、まだシザーマンが登場してすらいない!

しかし、『敵はシザーマンだけじゃない』『ジェニファーは只者じゃない』という2点が判明した。

きっと無駄な犠牲ではないはずだ。

 

また、ここで僕達はパニックボタンの存在を思い出した。

さっきジェニファーの顔アイコンが点滅していたし、恐らくここで連打をすればいいのだろう。

しかし…、パニックボタンってどれ?

僕達はパニックボタンの存在は事前に調べて知っていたものの、それがどのボタンかを把握している者は1人もいなかった。

だがそこは10年来のゲーマーの集まり。

「全部連打すればいいじゃね?」の声のもと、そのまま進めることに。

これがのちのち悲劇を起こすということも知らずに…。

シザーマン参上!

2番手は僕。今の鏡をさっそくもう一度調べてみる。…が今度は何も起こらない、残念。

続いて適当に歩いていると…、不穏なBGMが鳴り出した。

とりあえず嫌な予感がしたので適当に近くの部屋に逃げ込んでみたところ、そこはバスルーム。

ああ、なんかイヤだなあ。

「絶対なんかあるよこれ!」とかいいながら部屋を探索していく。

そして奥のバスタブまわりのカーテンを開けると…。

 

そこには友人「ローラ」の死体が、さらにその下からヌットオオキナハサミガ…。

シザーマンの初登場!!さっそくはさみを振りかざしながら迫ってくる。

早く逃げろジェニファー! 悠長に歩くな! のんびりドアを開けてないで!ああ、そっちに歩くなシザーマンにぶつかる。

…どうやらこのゲーム、ジェニファーよりもプレイヤーがパニックになるようだ。

 

バスルームを出て廊下を走る!

…と、なぜか前方からシザーマンが歩いてきた。どこでもドアか!?

慌てて入った部屋でベッドを選択したところ、ジェニファーはベッドの下に隠れてくれた。

そして部屋に入ってくるシザーマン…。…彼はしばらくウロウロしてから去っていった。

…助かった。 

追いかけられている間はBGMが変化するが、これも緊張感を煽る。

 

敵はシザーマンだけじゃ…

気を取り直して探索を再開。

館の奥へ進むと、車のガレージらしき場所に着いた。

これ絶対シザーマンがいるよ…と言いながらも車を調べる。

…あれ、いない? しかも車もある上に近くにエンジンキーまで落ちてるときたもんだ。

しかし彼女は車の運転ができるのか???

 

車を調べてみたところ、「これで脱出できるかしら。…でもみんなは…。」というジェニファーの独り言が。

まあ確かにまだ1人しか死亡してないし見捨てて1人逃げるのもなあ。

それにこんなに簡単に脱出できるわけない…。などと思い、車を離れようとすると、I君から悪魔の囁きが。

 

「これ確か、何回も調べるとメッセージが変わりますよ。」

 

試しにもう一回調べてみると、ジェニファーは脱出するべきか迷っている様子。

そこに追い撃ちをかけるように、

「もっと調べる脱出する事ができます。」

とのI君の言葉が。

「しかしこういう時に1人脱出するのって大抵死亡フラグじゃないか!?」

そんなことを言いながらも気持ちが傾いていく僕。そう、分かっていたんだ。

…あんな化け物に襲われた以上、友達はとっくにみんな死んじまってるんだって…!(思い込み) 

甘美な誘いに乗って調べると、我らがジェニファーさんは躊躇なく車で壁を破って脱出してしまった。

そして流れるスタッフロール。

 

 ( ゚д゚)ポカーン

 

あれ?もう終わり?? …ってそんなわけないよ!

案の定、スタッフロール終了後に車の後ろからシザーマンのおおきなはさみがヌっと出てきた。

目を大きく見開くジェニファー、暗転、悲鳴、DEAD END…。

 

な ん と い う 孔 明 の 罠 。

 

見事I君に騙された。

これはあれか!?埋伏の毒か!? 

ああそうか、「敵はシザーマンだけじゃない」ってさっきも言ってたもんな。

…でもまさか味方の中に敵がいるなんて…。

そんなわけで僕の一回目のプレイは見事にバッドエンドを見て終了。

シザーマンにも襲われたし楽しめたなあ…。

…というか、緊張感から解放されてちょっと嬉しかった。

これ、コントローラーを握ってる人と周りで見てる人で緊張感がケタ違いだわ。

 

本気で攻略するぜ!

そこから先はしばらくの間謎解きタイムとなる。

鍵とドアの数がどうも合わない。

行けそうな場所にはほとんど顔を出したし、なぜかシザーマンもさっぱり出てこない。

きっと車の中で待機しているんだろう。

 

…そして2時間もの捜索の末、なんとか新しいルートへ開拓が始まった。

今までさまよっていた東館から、舞台は西館へと移る。

なお、ここまでシザーマンとのエンカウント回数は0。むしろ出てきて欲しいと感じたくらいである。

 

さて、新天地への一歩を踏み出した途端、僕達は愕然とした。

行ける場所が多すぎるのだ。

適当に廊下を歩くだけで部屋が5つも6つもあり、どれに入ればいいのか分からない。

そこで僕達は、ここからマッピングを本格的に行うことにした。

ああ、マッピングなんて久しぶりだなあ…。などと思いつつも丁寧に地図を埋めていく。

この図を見てもらえば分かると思うが、かなり必死に攻略している。

今見ると、「シザーポイント」「怪力」などの意味の分からない表記が目立つのもポイントだ。

もっとも部屋の名前はその場のノリで決まったものなので深く考えてはいけない。

下の段の真ん中辺に、「萌」と書いてあるように見える場所があるが、これは「崩」と書こうとしたんです。きっと。

このような図を描くことができたのも、「クロックタワー」が全ての部屋のつながりを矛盾なく設定されているおかげだと思う。

 

事件は会議室でおきてるんじゃない!

やっと辿りついた西館は恐怖の館だった。予想外の所からシザーマンが出現する。

最初にシザーマンに遭遇したM君は逃げに逃げて…東舘までやってきた。

なんとか安全地帯でやり過ごすM君。

かなりの距離を逃げ回ってきたが、これも無理からぬこと。

なにせ正面からでは絶対に勝てない相手に追い回されているのだ。部屋の隅に追い詰められたが最後、そのはさみで…。

 

そんな緊迫感のあふれる中、I君からこんな言葉が。

「シザーマンに接近して香水(持ってるアイテム)をぶつければ勝てたはず。」

これに対してM君は…。

「そんなこというけどやって見ろよ!怖くてぜってー無理だって!!」

…そう、さっきも書いた通りこのゲーム、コントローラーを持っている人と周りで見ている人で本当に温度差があるのだ。

 

プレイしてる本人は死亡フラグがありそうな場所は調べたくはないし、周りの人間は他人事のように調べろと強要する。

正直、僕も自分がやっているとき以外はかなり勝手なことを言っていたと思う。

地味に友情を破壊するゲームだ。

なお、香水はシザーマンの撃退とはなんら関係のないものであったということを付け加えておこう。

 

シザーマンが倒せない

さらに謎解きをしながら物語を進めていく。

この頃になると、4人各自の役割が大体決まってきた。

僕はマッピング担当。あの汚い図は大体僕が書いたものである。

O君はストーリー進行担当。プレイ時間が長いわりに危険な部屋に出会わないのが特徴である。

M君がグロ担当。なぜか彼がプレイすると変な部屋ばかりにたどり着く。ホルマリン漬けの内蔵があったりゴキブリが出現したり…。

I君は変な助言(?)担当。彼が「ここにシザーマンがいた気がする。」と言うと、大抵その部屋にはシザーマンが出現する。

ただし、彼が指をさした場所とは別方向から…。

わざとなのか素なのか分からないが、かえってビビるので黙っていてもらいたいものだ。

 

例えばピアノがある部屋にて、

「ここでピアノを調べるとシザーマンが上から落ちてくるんだよね。」

とのI君の言葉が。

O君がピアノを無視して部屋奥のタンスを調べると、タンスの中からひょっこりシザーマンが…!

この時は全員が意表を付かれて軽いパニック状態に陥った。

まずO君が死亡。

I君の助言のもと、ある部屋に逃げ込んだM君が死亡。

I君が「ここなら撃退できる!」と自信満々にのたまった部屋で自ら死亡。

散々逃げ回った挙句、袋小路に追い詰められて僕も死亡。

I君が再度、香水を投げつけようとしてできずに死亡…と、ここで死亡ラッシュを繰り広げる。

無限にコンティニューできる仕様で本当によかった。

 

探せ!パニックボタン!

こんなちぐはぐなチームでも、なんとかクライマックスと思われる場所へやってきた。

巨大な怪物に追われるジェニファー。しかも目の前には傾斜のキツい崖が。

果敢に登ろうと試みるも、滑り落ちて敵に追いつかれてしまい、死亡。

ここはそう、パニックボタンの出番だ。

懸命にこの壁に挑戦する僕達だったが、あえなく全員失敗。

ゲーム開始から6時間、思えばシザーマンと揉みあう時もトラップにかかった時も、常に全ボタンを全力で連打しながらここまでやってきた。

だが、とうとうそれでは通用しなくなったようだ。

 

一人一人交代で違うボタンを連打する作業に移る。

この間に4人のジェニファーが死んだ。

僕はLとRボタンを連打しまくったが、あえなく撃沈。

そうこうしているうちに、とうとうO君が崖を上りきった。

 

「やったな!どのボタンを連打したんだ!?」

 

と勢い込んで尋ねてみたが、返ってきた答えは、

 

「LとRとAとBです!!」

 

 ……結局どれだかわかんねえええええ!!

 

 

そしてエンディングへ…

「クロックタワー」の名に恥じず、最後の鍵を握るのは時計塔であった。

必死に時計塔を目指すジェニファー。

そんな彼女の前に最後の敵が立ちはだかる。

ここでも懸命にボタンを連打するも、さっくりと刺されて死んでしまう。

僕達は今度こそ1ボタンずつ連打をすることにした。

なお、この戦いで5人のジェニファーが死亡した。

 

そして、時計塔へとたどり着き、とうとう脱出、感動の(?)エンディングへ…!

喜びを分かち合う僕達。シザーマンを倒し、この恐怖の洋館から脱出することに成功したのだ。

今ならば洋館でさまよった7時間も、楽しい思い出として振り返られる。

あの恐怖のシザーマンも、どことなく愛嬌のある顔立ちをしているじゃないか、これはドット絵のせいだけど。

 

僕達がみたエンディングはランクC。

グッドエンディングの中ではもっとも評価の低いエンディングある。

まあ初プレイだもんね。

こうして、多人数によるクロックタワー攻略は幕を閉じた。

全員の思いがいろいろな意味で一つになった稀有な時間であった。

 


 

今回の攻略は楽しかった。在りし日の頃の懐かしい感覚がよみがえる。

それぞれが個性を発揮し、助け合い、ともに考え、ともに怖がる。

思えばこの感覚は、幼い頃に友達とやった探検ごっこに似ていたかもしれない。

探索を終えて今や慣れ親しんだ洋館は、今では僕達の秘密基地みたいなものだ、などと書くと流石に言いすぎだろうか。

実はこの企画を始めた時、もしかしたら一人用のゲームを複数人でプレイするのは邪道なことなのかな?という考えが一瞬頭をよぎった。

ゲームの製作者は、プレイヤーがあくまで1人でプレイすることを前提に作っていたりするんじゃないか、とも。

でも、たとえそうだとしても、この楽しさだけは間違いであるはずがない。

あの頃自分達がやっていた遊び方が間違っていなかったって信じてる。

みんなでやるゲームは、1人でやる時とはまた違った面白さを見せてくれるんだ…。