自転車による調布浜見間移動経路の新規開拓

―提案と実走―

M2M kinoko

“引き返すなら今のうちだぞ”

―様々な意味で

1. はじめに

近年, 本研究会が春夏に湘南方面(神奈川県藤沢市辻堂東海岸, 通称:浜見) で行う合宿への参加方法は多様化している. 通常は調布より京王線および小田急線を用いた比較的短距離短時間の移動が行われているが, 会員の趣味により鉄道だが遠回りをするものやバス, そして自転車が用いられる事がある.

自転車による移動は過去にも幾度か試みられたが,東京都多摩地域から神奈川県湘南地域へという地形上の問題から, 既知の経路は自転車という手段に対して何らかの問題を抱えている. しかし所謂運賃が存在せず, また現地での移動手段も確保できるといった利点から, このような移動に対する需要は一定数あり, そのための新規経路開拓は有意義である. よって著者は新たな経路を提案・実走し, その評価を行った.

2. 先行研究

ここで,自転車以外も含めた調布浜見間特殊移動の先行事例について触れる.

古くは群青編集委員会による徒歩も含めた各手段を用いた事例が知られているが,本研究会において本格的に行われた特殊移動は自転車を用いたちょこた[1]を嚆矢とする.以降は鉄道を用いた長距離移動に関心が移り,とがびとらによるもの[2][3]が行われた.これらは青春18きっぷ等を用いたもので,それぞれ関東を一周するもの及び岐阜県を経由するものであった.これらの2回により鉄分の補給はほぼ満足され,今夏はSUEらがバスによる移動を計画した[4].また,2008年春には著者も参加したブリキ95らによる自転車を用いた移動が行われた[5].これらのような移動は総じて“エクストリーム浜見寮”と呼ばれるが,狭義には非特急列車や路線バスを利用した意図的な長距離長時間移動を指すことが多い.

以上のような先行研究のうち,鉄道やバスなど動力を用いたものは概ね地形的な下調べを必要とせず,時刻表などを用いた計画が容易である.対して自転車など人力によるものは地形の影響を大きく受けるため,地形図などを用いた入念な調査が必要である.しかし地図により得られる情報には限りがあり,実走に勝る手段はない.

ここで,調布浜見間移動を想定した場合,東京都南部および神奈川県北東部の丘陵地帯の通過法が重要である.調布から当該地域へは比較的平坦な道が複数存在するため,事前調査の必要性は薄い.神奈川県大和市から浜見に至る経路も同様であり,大抵国道467号線を経て藤沢より県道30号線が用いられる.

この丘陵地帯に関して,ちょこたはこどもの国を通り国道246号線に至る経路を選択したが,こどもの国付近は特に険しい坂の存在する地域であり自転車による走行には不適である.ブリキ95らは下麻生より環状4号線(神奈川県道18号線)を経て厚木街道(同40号線)を通り国道467号線に抜けた.これは地図上ではほぼ最短経路であり調布浜見間を50km弱で結ぶが,環状4号線は下台より海軍道路入口にかけて激しい起伏が数回連続するため体力の消耗が激しい.このときには雨による途中休止分も勘案して,往路は約4時間,復路は2時間半を要した.

3. 提案経路

3.1. 往路

以上を踏まえ,往路では町田および横浜北部の丘陵地帯を極力迂回すべく経路設計を行った.県道3号線を用いて下麻生を経由する点はブリキ95らと同様だが,そのまま県道57号線を淵野辺まで西進し,国道16号線に出ることとした.環状4号線を用いた経路に比して大幅に遠回りであるが,地形図上では大きな上り勾配は比較的短いものが1箇所あるのみであり,大幅な所要時間の増加には繋がらないものと考えられた.なお金井入口より左折しそのまま県道3号線で町田付近に抜ける経路も考えられたが,より急な勾配が予想されると共に国道16号線ないしは国道246号線への経路が複雑になる恐れがあったため,今回はこのような経路をとることとした.

国道16号線に抜けたのちは,つきみ野入口より県道56号線を経て国道246号線に抜け,そのまま一ノ関から国道467号線に入る.その後は白旗まで南下した後そのまま直進,南仲通を右折して浜見山まで県道30号線を進み,県道308号線を南下して浜見寮に至るものである.

3.2. 復路

復路については白旗神社直後に急勾配が存在し,出発後10分にしてモチベーションに壊滅的な被害を被ることが問題とされている[5].そこでこの上り勾配を緩和するべく,今回は境川沿いに藤沢橋より境橋まで北上することとした.

その後は厚木街道(県道40号線)を東進し瀬谷4丁目より海軍道路を北上,環状4号線を下りつつ県道12号線に抜け,下麻生に至るブリキ95らと同様の経路である.

4. 実走評価

4.1. 往路

表1に往路におけるタイムチャートを示す.時刻および地点は大まかな目安であり,距離も同様でGoogleMapによる値である.

Tbl.1: Time chart (the first half)
Time Point Distance[km]
08:10 調布市国領
09:16 根岸西 20
10:00 目黒(246との合流点) 32
10:30 藤沢市高倉 42
11:00 白旗付近 50
11:10 モスバーガー入店 52
11:55 出発 52
12:00 浜見寮着 54

ここでは主に今回提案した区間について述べる.

下麻生を過ぎて淵野辺に向かう道は比較的平坦であり,目的地から遠ざかるような気分になる以外は特に迂回による走行距離の増大を感じさせなかった.だが図師大師に至り,そのような気分は残念なものとなった.それまでほぼ平坦だった道が,交差点を過ぎるとあからさまな傾斜を見せたのである.地形図で確認すると,水平距離約600mで40m分程位置エネルギーを増大させることになる.これは約7%の勾配であり,道路構造令では制限時速40km道路の基準値に当たる.自動車でこれならば,自転車の負荷は如何程か想像がつこう.

坂をだいたい上り終えたあたりは路線番号による「道なり」と実際に感じるそれとが乖離しているため,注意が必要である.馬駈では交差点を直進してもすぐに復帰できるが,忠生では気づかなければJR横浜線とどこまでも並走することになる.

そしてたどり着いた根岸西はほぼ坂の頂上であり,景色といい爽快感がある.ここからは国道16号線に出るまでまっすぐゴーである.ただ,JR横浜線を越える時はそのまま踏切で交差したり跨ぐのではなくくぐるため,位置を見失いがちである.国道16号線に入る地点でも,交差する道路名が明示されてはいないため,注意しなければならない.

ここからは国道246号線に入る目黒交差点まで平坦な道を直進する.246号線は走る距離は短いものの,16号線と同様に車両には十分な注意が必要である.国道467号線に抜ける所ではただ道の左端を走っていれば良い.

さて,467号線の締めくくりは比較的長い,左右の切り返しもある下り坂である.ここは特に困難な道を選ばずとも体験できる点でポイントが高く,気分も爽快,一押しである.この坂を下れば藤沢市中心部は目の前であり,終点までも後わずかである.なお,今次合宿においては著者が一番乗りであったことをここに記しておく.

4.2. 復路

表2に復路におけるタイムチャートを示す.注意事項は往路と同様である.

Tbl.2: Time chart (the return half)
Time Point Distance[km]
11:30 浜見寮発
12:30 瀬谷4丁目 21
13:00 下台 30
13:30 百合丘 40
14:00 国領着 50

復路においてはまず,藤沢橋交差点より直接川沿いに出られるわけではない点に注意が必要である.入れないことはないが,一本北上することを推奨する.その後は境橋までひたすら進むのみである.道は狭くもなく広くもないが,舗装は予算の多寡に思いを巡らしやすい程度である.また,風景はどこまでも川と田畑である.数十から数百m西にそれなりの国道が整備されているとは思えず,田舎くささ全開である.467号線沿いもたいしたのものではないが,どこか不安を掻き立てる情景に感じる.そういうものが好きな人にはお勧めであるが.なお,今回はDQNの川流れ予備軍的な存在を目にしたことも,残念な感情の形成に一役買っていたとは認識している.

厚木街道から海軍道路にかけては概して走りやすい良い道路であるが,雨後は泥はねで萎えてしまわぬよう[5],自転車帯のある歩道よりは車道を走ったほうが無難かもしれない.

海軍道路入口で右折し数十m進めば待望の環状4号線である.往路としては厳しい道も,復路としては素晴らしい下り坂であり,調布浜見間移動に自転車を用いるならば是非とも選択すべき経路である.運よく信号に捉まらなければ,10分とかからず下れるだろう.なお歩道は落ち葉などが積もっていることも多いため,歩行者がいなくても注意する必要がある.車道を走るべきであることは言うまでもない.

下台を過ぎれば青葉台付近でやや上りがあるのみで,気づけば環状4号入口,そして下麻生付近である.県道12号線は車道歩道ともに狭い割に交通量が多い.また県道3号線に出る際は,そのまま下麻生交差点を右折するのではなく,病院横の道に入った方が無駄な上り下りを避けられるため,有益である.このころには疲労のため坂は堪えるが,ここを乗り切れば得難い充実感が待っている.

5. おわりに

以上,調布浜見間の自転車による移動について,新経路の提案と実走評価を行った.結論としては既存経路に比して負担は少なく所要時間も短縮されたため,高い評価が得られると確信している.しかし,今後自転車による移動を試みられる諸氏には,まずは環状4号線を登られることをお勧めする.新たな属性に目覚められるかもしれない.

さて,著者も現役として本同好会の合宿に参加するのは今年度が最後である.来年度からは西の善きOBの一人として参加したいと願っている.もちろんエクストリームな参加者として.

参考文献

  1. ちょこた,ぱんくニモマケズ、迷子ニモマケズ,2006
  2. とがびとら,浜見やいずこ―ザ関東一周―,2007
  3. とがびとら,岐阜ってどこだよ,2008
  4. SUEら,バスで行こうぜ,2008
  5. ブリキ95ら,俺達はまだ登り始めたばかりだからな、この4号を,2008

附録―諸注意―

補給

特に夏場において,適切な補給は重要である.著者は15から20分おきには信号で止まった時間などを利用した.内容としては,水分とエネルギーが同時に補給できるといった点でウイダーinゼリー的なものが最適である.消化に時間を要する一般的な食事は具合が悪くなりがちであるため避けるべきである.なお,著者は片道6ウイダーほど消費した.交通費は不要だが食費は嵩みがちである.ゼリーすら腹に入れたくないという者にはコーラが良いが,炭酸を抜いておくことに注意する.また適度に水で薄めて濃度を調整すればより実用的である.

装備

荷物という意味では,当然少なく軽い方が良い.が,キャンピングバイクに荷を満載するのもまた一つのステータスである.走行のための用品としては最低限コピーでもよいので地図は必須である.工具や予備部品の携行も本格的な者たちには嗜みであるが,普通は難しいだろう.そこで,移動経路沿いに自転車屋があるかどうか調べておくとよい.今回の経路では,少なくとも瀬谷4丁目と467号線の途中に大きめの店があった.

使用する自転車としては,最低限8段くらいの変速機付きが欲しいところである.無変速のママチャリによる挑戦は高評価だが,やや難易度が高い.結局平地用と坂道用で数ギアしか使用しないとは思われるが,各人に合ったギアがある可能性からも,多い方が良い.また上級者は軽めのギアを速く多く回すことができるが,一般人には重めのギアをゆっくりでも確実に回す方が楽だと思われる.

自転車の種類としては,特には物を選ばないが,交通機関の代わりとして用いるのであれば所謂ロードバイクが適しているのだろう.ただ路面性状が良好でない場合はマウンテンバイクなどサスペンション付きで丈夫な自転車が好ましい.結局時速20km程で巡航できるなら何でもよく,身も蓋もない話をすれば動力が欲しくなるのである.