コナミ専門学校に関するレポート


井原伸介

 さて。ゲームを制作するサークルに所属するぼくとしては、世に乱立するゲー ム専門学校でいったいどんな教育が為されているのかということになんとなく興 味を抱いていたのであり、今夏会誌のネタに困ったこともあってひとつその内容 をこの目で見てやろうと思い立ったのである。
 ぼくはさっそく本屋に出掛けてゲーム雑誌を適当に一冊買い求め、掲載された 広告からこれまた適当に拾い出した『コナミコンピュータエンターテインメント スクール(長ったらしいので以下コナミ専門学校とする)』の入学説明会に参加 してみることにした。拙文はそれに関する簡単なレポートである。概ね時系列に そって当日の体験について一通り記述し、読者諸氏への報告とさせて頂きたいと 考える。
 先ずこの時点で断っておきたいがおよそ面白いといえる読み物にはならないと思われる。ぼくはゲーム専門学校などというエキセントリックなしろもの(むろん失礼な意図でこう表現するわけではない。念のため)であるからにはその教育内容も大いに仰天しうるだけの意外性・独自性を有し、つまり説明会の参加者に驚愕と感動を与え続けるようなステージが眼前に展開されることを疑わずにのこのことでかけて行ったのだが、実際にはコナミ専門学校は十二分な設備、人員を備え、確固としたポリシーとコナミ社の充実したサポートに支えられた(少なくとも入学説明会の参加者にそれくらいの印象を与えるくらいのことをしうるだけの)教育機関でありぼくなど説明会が終わった後の数十分くらいは「へぼっちい電気通信大などやめてコナミ専門学校に」などと半ば本気で考えていたくらいである。真面目半分茶化し半分でおもしろおかしくレポートをぶっ書いてやろうというぼくの目論見はすっかり外れてしまい、正直なところこのネタについて文章を書くことすら迷うくらいのものであるが、とっても眠いのでともかく書いてしまおう。

 説明会が開催されたのは9月22日(土)であり、ぼくは友人Fと連れ立って現地へと向かった。渋谷駅の東側から出て首都高速沿いに10分くらい歩いていくとコナミ専門学校の入る10階くらいのビル『日本薬学会長井記念館』に到着する。コナミ専門学校は6・7階の2フロアを使っている。1フロアはおよそ一辺を30メートルとする正方形であり、考えていたより規模の小さいことにおどろく。友人に話すと彼も同様に思ったようである。
 エレベータに乗り6階の受付に向かう。説明会は14時から17時までの予定であり、時間ぎりぎりの到着である。スーツに身を固めたお姉さんの応対を受ける。
 「すみません、今日、なにやら体験会が開催されると聞いて来たのですが」
 「特別入学説明会のことですね」
 「ええ」
 「事前のご予約は為さっておられますでしょうか」
 「いえ」
 「ではこちらをどうぞ」
 と封筒に入ったパンフレット一式を渡され、「ご案内します」と説明会の会場となる部屋にふたり通される。

 部屋は長方形であり100平米といったところ。前面に長机と椅子とで簡単な演台が設えられておりスクリーンにはプロジェクタによって在校生のものと思しきゲームの映像が照射されている。演台からやや離れたところに4列に椅子が並べられており一列は約10脚。すでに8割くらいは人が座っており、ぼくとFとは席を離して座らなければならなかった。椅子はプラスチック製で背もたれと肘掛けが付いており座りごこちは悪くない。
 先客たちの顔をざっと見回すに、想像通り殆どが男であり殆どがぼくと同年代かやや下といった年齢。彼らマジョリティに対してはろくに注意も向かないし顔の造形も一つとして思い出すことはできないが、印象に残っているマイノリティについては記述することができる。女の子は3人。にきびのある彼女は学校帰りであろうか高校の制服を着ており、彼女の手元のアンケート用紙をちらと見ると「我孫子高校」の3年生であるらしい。友人同士であるらしい2人組は不器量で身だしなみにも整いを感じさせず、正統派オタク少女という風貌だ。最も目立っていたのは若者の中に立った一人紛れ込んでいた40くらいの男性である。無精髭を生やしややくたびれた格好で渡されたパンフレットを熱心にめくっていた。ライバル学校の偵察か、ぼくらのような冷やかしか、あるいは本気でゲーム制作者を志してここにやってきたのかは伺い知れない。
 部屋はカーペット敷きであり背面には窓があるが隣のビルの壁面を間近にして採光にはたいして貢献をするように思えない。内装全体の印象としては小綺麗なオフィスビルといったもので淡泊な清潔感がある。ぼくは説明会が始まるまでの10分ほど、スクリーンに映される映像に注目していた。ここでスクリーンにあらわれるのは後に在校二年生の制作によるものであると説明される3つのゲームである。1つのゲームあたり2分程度に編集して繋げ、それをループして流すようにしているらしい。

 それらのゲームについて説明をしよう。一作目は3Dシューティングゲームであり、戦闘機の形状をした自機があるいは宇宙空間あるいは幾何学的・直線的な造形物を奔放に配置した空間にて次々と現れる敵機を数種類の弾丸によって撃墜する仕組みであるらしい。これを一見してぼくは大いに驚きを感じたのである。先ず3Dによって造られた各々のオブジェクトはなかなかの詳細さであり、プレイステーション、セガサターンの初期であれば何とか製品として通用するだろうというクオリティを有していた。敵機を撃墜する際の爆発の効果などもしっかりしており、炎の広がっていく様、煙の透明感には感心するものがあった。ところでBGM、効果音については印象がおぼろげで書くことがない。ぼくはプログラミングはするが作曲はしないので注意がそちらに行かないのである。以下、耳からはいる部位についてはほとんど書くことが無いことをご了承されたい。何人居るか分からない在校生の中でもっとも優秀なものの制作物を、ある程度まで見栄えがよいように意識してプレイしたものであることを了解しながらも、このゲームによってぼくが受けた感銘は些かならぬものであった。
 続いてシーンは切り替わり二作目が始まった。これも一作目と同様に3Dのシューティングゲームであり、戦車あるいは装甲車と思われる自機が荒野に建造された軍事施設の如き建築物を舞台として動き回る仕組みである。これに敵機が出てきたかどうか、さらに自機が弾を撃ったかどうか記憶が定かでなく、拙文を読んでおられる諸氏に謝らなくてはならない。帰って直ぐに取り組み当日のうちに書き上げてしまえばいいものを二週間も経ってからこうして書いているので記憶は相当ぼやけてしまっている。たぶん敵は出なかったし弾も撃たなかったように思われるのだが敵が現れたかもしれず弾も撃ったかも知れない。建築物および荒野の造形はかつて権勢を誇ったベンチマークソフト『final reality』の1シーンのようなものであった。地面は平坦で凹凸はなく、自機は地面を走行するのみの動作であり上下に視点を動かすことはなかった。一作目が自機の後方に視点を置いていた(プレイヤーから自機のけつが見える)のに対し、二作目は戦車に乗り込む人間の視点を採用し、プレイヤーからは戦車の砲塔が見えるのみであった。ポリゴンの細かさは一作目よりも二作目の方が上に思われた。
 3つ目はこれまた3Dシューティングゲームであり、粘性のある球体に目鼻を付けたような自機が似たような造形をした敵機を撃墜していくものだった。空間は山や木をモチーフとしたと思われる丸みを帯びた造形物によって構成され、桃色だらけのパステル調の色使いが目にやさしい。このファンタジックな世界観に似たものとして『ファンタジーゾーン』シリーズを挙げることができる。あれは2Dのシューティングであるが、あの世界観を3Dに造り直せば蓋しあのようなものになると思われる。自機はふわふわのんびりと空間を漂うようにして飛び回り、敵機を次々と掃討し、ついには台地の上に鎮座ましますボスをレーザーの如き線状の弾とミサイルの如き敵を追う動きをする弾とで撃破した。画面には大きくステージをクリアしたことを伝える文字列、たしか'StageN Clear!'などという文面と獲得した得点とが表示され、自機がぴょんぴょこ跳ねて喜びらしき感情を表現したところで終わりである。以下、また一つ目のゲームの映像が開始され、ループしてこれらが繰り返し再生される。
 映像を一通り見てぼくが考えたこととしては、何よりもこれら3つのゲームが同工異曲であり、同一のカリキュラムに基づいて作られたものではないかと思われることである。自機が画面中央に完全に固定されること、自機の打つ弾の表現や動作が殆ど同一であること、爆発などの表現が似通っていることといった細かい点を挙げるまでもなく3つとも3Dシューティングであることで概ね裏付けられるだろう。

 2時を少し回ると部屋にぼくとFを案内したお姉さんが現れ、説明会の日程について話をした。OBによる公演、職員による各種説明、施設見学、質疑応答という順番で進んでいくとのこと。続いて3つの学科の講師をそれぞれ一人ずつ登場し、お姉さんが彼らを紹介する。質疑応答ではぼくらはコースごとに分かれ彼らがそれぞれ質問を受け付けるそうだ。これらが手短に進行し、お姉さんと講師らが退室すると次には若い男が3人入ってきて公演が始まった。
 スーツを着た男はコナミ専門学校の職員であり、彼が司会役をつとめる。彼が自己紹介をし、こちらはラフな服装をし無精ひげなど生やした2人の男を紹介する。彼らは『コナミコンピュータエンターテインメントジャパン』のスタッフであり、現在は『メタルギアソリッド2 サンズ オブ リバティ』の制作に携わっているらしい。アクションゲームを殆どやらないぼくは『メタルギアソリッド』の名すら知らなかったのだが、前作は特に欧米で大きな人気を取り、100万本を売り上げた大ヒット作であるらしい。そしてもちろんコナミ専門学校の卒業生であるとのこと。一人はプログラマであり、もう一人はサウンドだ。司会氏との軽いやりとりで公演は進行し、時間は1時間弱といったところで、彼らの経歴や仕事、コナミ専門学校での思い出についてやりとりが為される。覚えていることを書き上げてみると。
 プログラマ氏は元会社員であったが、ゲーム制作への熱い情熱からコナミ専門学校へ入学した。プログラマコースを選んだもののプログラミングは殆ど未経験であり、入学後は大いに勉強に励み技術の習得に努めた。その甲斐あって見事コナミに採用、『メタルギアソリッド』チームに配属される。在校期間は二年弱だそうで、未経験の状態からそれだけの期間でゲームプログラマとしての力量を獲得するのだから相当な適正があったのだろう。
 サウンド氏は中学校の頃からゲーム制作者になりたいと希望を抱いており、コナミ専門学校の前にも作曲を学ぶ専門学校に籍を置いていた。そこを卒業した後、コナミが専門学校を作るという話を聞いて早速入学。だからコナミ専門学校の一期生である。在校期間は1年半。この在校期間というのは、課程では2年となっていても、コナミ専門学校では実力さえ見合えばさっさと上に引っ張りあげて社員として登用してしまうそうで、彼らはその実力から期間を全うすることなく制作会社への道をつかんだとのこと。
 今は『メタルギアソリッド2』の追い込みのためたいへん忙しい時期で、彼らも殆ど徹夜で制作に没頭している。ゲーム制作者は激務だと聞くが実際そのとおりで、休みは週に一日取れるかどうか、平日も会社に泊まり込むことは茶飯事で、ほとんどゲームを作るだけの生活になるらしい。ただし、ゲームのマスターアップが済んでしまえば纏まった休みを取る。数週間〜一ヶ月くらいの長期休暇を頂いてゆっくり休むことができるそうだが、2人で顔を見合わせて「取れるかなあ?」などと行っていたところをみると取れるという保証はないのだろう。有給はみるみるたまり、先輩の中には100日を越える有給を抱えている人もいるそうで、ゲーム制作の激務であることが偲ばれる。

 講演が終わるとコナミの2人は退室。続いてプロジェクタを使用して学校の各種制度について説明が為される。コナミ専門学校にはプログラムコース、映像デザインコース、音響サウンドコース、3DCGコースの4つのコースがあり、それぞれ2年間の課程。それぞれのコースの詳細なカリキュラム内容について興味があれば、コナミ専門学校のweb(http://www.konami.co.jp/school/kcehomepage/index.html)から資料請求ができるのでそれをご利用されたい。いずれのコースもまったくの初心者が入学することを想定しており、一年次では基礎的な知識を習得し、二年次で実践的な実習・制作をすることになる。また、二年次の課程を終えてさらに深い内容を学びたいという人には、大学院的な存在として「プロフェッショナル科」という一年間の課程が設けられている。ここではさらにプランニング、マネジメント、シナリオといった各分野を学ぶこともできる。みごとお目に叶えばコナミ各社へ入社、そうでなければ自ら就職活動をして落ち着く先を見つけなければならない。彼ら非コナミへの就職組について、何一つ詳しい説明は無かったのは心掛かりなことである。就職のサポートを行う、とは言っていたが。
 コナミ専門学校は学校法人としての認可を受けておらず、形態としては私塾である。説明によるとこれは法人格を取得することによって生じるさまざまな制約を嫌ってのこと。ゲームに関わる技術は日進月歩であるためフットワークを軽くしておく必要があるそう。しかし当然学割その他の学生に与えられる特典を享受することはできない。コナミ各社へのインターンシップなど、コナミ本体との結びつきは非常に強いという印象であり、講師も多くはコナミ各社の出身であるようだ。
 全体的に実力主義の色彩が濃い。2年間の課程修了を待たずに有望な生徒は引っ張られて行くし、逆に能力が無ければ卒業もできない。「プロフェッショナル科」にしても、コナミ入社が成らなかった生徒に対する執行猶予としての面があると思われる。コナミ専門学校からコナミ各社への入社が認められれば、初任給は大学院卒と同等の待遇となり(たとえ中卒からの入学であったとしても)、学費は全額が返還される。このあたりからも、コナミがコナミ専門学校を人材を発掘する場として運営しているということを感じる。パンフレットによると、卒業生のコナミ各社への輩出は累計191人であるとのこと。
 学費は年間125万円。入学金が30万円。私大理工系でもこれだけ取るところは高い部類に入るだろうか。授業は一日に均して3時間(授業1時間は90分間)である。専門学校を他に知らないので比較する対象を持たず、これが学費としてどれくらいの部類なのか、授業の量は通常これくらいなのかは分からない。書類による入学選考はあるが、実際にはほぼ無試験であるよう。ただし二年次に入学する「キャリア入学」という制度があり、これについては作品の提出や面接試験がある。

 説明を一通り受けた後、説明会参加者全員で校内の設備を見学する。6・7階と2フロアを使っていることは前に述べたが、主に6階を一年生で、7階を二年生が使うようだ。先ほどの司会氏につれられて階段を降りて6階から見学を始める。階段を下りるとロビーに出る。50平米ほどのスペースにソファーと観葉植物が並んでおり、席数は数十。雑誌の閲覧も可能であり、コンピュータ雑誌、ゲーム雑誌、アニメ雑誌とほとんど揃っている様子。飲料とインスタント食品の自販機もある。司会氏によるとここが学生の歓談の場になっているとのこと。食堂を持たないため、昼食は外に出て食べるかコンビニ等で買い込んだ食事をここで摂るかする。
 続いて映像デザインコースのスペースを見る。説明会の最初で紹介された各学科の講師が各々のスペースを紹介することになっており、目の前では中年の女性がなにやら生徒の作品であるというデッサンやデザイン画を見せて説明をしている。興味のある学科でもないため説明の内容はほとんど素通りである。デッサンやデザイン画は成る程うまいものだと思ったが鑑識眼がないためにどれくらいのものかは全く分からない。細長いスペースに2列になってあの例の絵を描くときにつかう三脚と画板を組み合わせた如きオブジェクト(名前がわからぬ)が並んでいたような気がするがこの記憶も至極曖昧だ。
 続いてプログラムコースのスペースを見る。これにはぼくとしても興味があるところだ。人の好さそうな小太りの男が現れて説明をする。PCとモニタが50台ほど並べられておりOSはWindowsNTを使っている。PCの詳細なスペックは分からないが講師氏の話によると二世代くらい前のものであり来年には入れ替える予定。窓際には図体のでかい青い色をしたサーバが一台設置されておりこれを介して各PCがインターネットと接続される。PCには様々な開発ツールがインストールされており講義や実習に使われる。自習自勉のために使用することも出来、ぼくが見学したときには一人の生徒が何やらモニタに向かって作業をしていた。しかしPCの性能が低いことからわざわざ学校で作業せずに家でやる生徒が多いらしい。ぼくとしては生徒の作品や開発ツールの陣容を見せて貰いたかったのであるが講師氏は彼と生徒たちおよび生徒同士のコミュニケーションについて解説を始め、先ずイントラネット上に解説されたプログラムコースのサイトをぼくたちに見せ、生徒たちの交流するBBSを見せ、続いてこちらもイントラネット上にある彼のサイトを見せ、授業の内容や課題について書かれたページを見せ、彼が設置した意見投票のCGIを見せ(『あなたはゲームキューブを買いますか?』という題目であった。「今は様子見」という意見が大勢を占めていた)、他にも色々と見せ、そういったことをしてここでの説明は終わった。
 次に音響サウンドコース(それにしてもこの名前は見事な意味重複である)のスペースを見る。PC2台、モニタ、プレイステーション、テレビ、MIDI音源SC-88PRO、縦に幾つも積まれたなにやらよく分からない機材、Rolandの黒くて高そうなキーボードを一式として12(14だったかも知れない)セットが2列になって並んでいる。これら設備を見てぼくが最初に抱いた感想は「これは高そうだなあ」というものであり、ひょろひょろとして眼鏡をかけた講師氏も設備について説明をするときには自慢げであった。彼の話によると一式がなんと200万円もするらしく、PCはDOS/V機とMacの二台が設置され双方を使い分けながら作業ができるようになっており、プログラムコースでは17インチだったモニタはここでは21インチであり、使用する作曲ソフトは『Logic』というのだがこれはたいへん高価なものだそうである。講師氏はキーボードのたたき方から教えるので初心者でも問題はないということを説明していた。
 6階はそこで一巡、階段を上って7階へ移動し、プログラムコースのスペースを見る。設備の設え方は6階のプログラムコースのそれと大差ないが、異なっているのはPC一台ごとに黒い色をしたプレイステーションが副えられていることだ。これは『ネットやろうぜ』という名前で売り出された、コンシューママシンであるプレイステーションでアマチュアがソフト開発を行うための代物であるらしい。講師氏の説明によると二年次ではPCを離れてこの『ネットやろうぜ』を使いプレイステーションで動作するゲームを制作するらしい。さすがはコナミの運営する専門学校だといったところ。しかし読者も御存知かと思われるがプレイステーションは既に後継機がリリースされており、それに応じて来年には『ネットやろうぜ』に変えて別の開発ツールを導入することを予定している。
 続いて3DCGコース及び映像デザインコースで使用するらしきG4Macが並んだスペースを見る。NANAOの21インチモニタとG4筐体の組み合わせは重厚かつ威圧感たっぷりで1セット貰って帰りたいものだと切実に思わされる。講師氏の話では使用するソフトウェアは『Softimage』といい、これはゲーム開発の最先端でも使われている非常に高性能で高価なものだという。
 そういったところで校内見学が一通り終了する。最初に通された部屋に再び戻るのであるがその途中に50席ほどの教室がある。ここで数学、物理の講義が行われるとのこと。教室といっても木の机と椅子に黒板という古色蒼然ではなく白いおそらくはプラスティック製の机と椅子とにホワイトボードという構成でそのままオフィスの会議室という雰囲気だ。

 部屋に戻ったところで4時15分。ここから質疑応答に移る。プログラムコース、映像デザイン及び3DCGコース、音響サウンドコースの志望者がそれぞれ別れて椅子で輪をつくり、かるい雑談といった空気で講師とやりとりをしていく。人数はプログラムコースが10人強、映像デザイン及び3DCGコースが約10人、音響サウンドコースはたった一人で講師と一対一という豪華な待遇である。ぼくとFはプログラムコースに参加する。
 先ず講師氏が簡単に自己紹介をする。やや肥えた人の好さそうな男で年の頃は40手前といったあたりだろう。スーツを着込んでいるが雰囲気は鷹揚であり包容力を感じさせ印象は悪くない。コナミ専門学校に講師の職を得る前はコナミに居り開発に携わっていたらしい。名前は忘れてしまった。
 輪を作った参加者は全て男で、三人いた女の子は全てデザインとCGのコースへ行ってしまった。まったくこれは我が情報工学科の男女比を思い起こさせる。ぐるりと顔を見回して見るが誰も内向的な印象をあたえる草食動物の如き風貌ばかりだ。殆どは進学を控えた高校生、あるいは浪人生だろう。中年の男性はここに参加していたが、それにしても、プログラマを志望するには少し年齢が高すぎる。本当にプログラマになりたくてここにいるならそれは立派なことであるが。
 さっそく講師氏が質問を求める。真剣に進学を考えてここに居る人が多いのだろうしそれならばいくらでも聞きたいことがありそうなものだがしかし一つも手が上がらないのがプログラマ志望者らしく微笑ましいところだ。隣のデザインとCGコースでははやくも質問が殺到し大いに盛り上がっているしサウンドコースだって講師と一対一でそれなりに会話が弾んでいるようなのに最も人数の多いここが沈んでいてどうするのかと思う。ようやく2,3人が挙手して次のような質問をする。
 Q:自分はパソコンを持っていないのだが。
 A:やはりパソコンは自宅にも必要だ。いまはパソコンの性能も向上し低価格化が進んでいる。10万円出せばプログラミングには十分な性能のパソコンが手に入る。是非購入して貰いたい。
 Q:パソコンをまったく使えないのだが。
 A:そういう人のために一から教えるのでそれでも問題はない。安心してほしい。だが、できればWindowsの基本的な操作くらいは出来た方がいいだろう。春休みにでもやっておいて貰いたい。
 Q:数学は難しいのか。
 A:高校の基礎的な事項は習得しておいてもらいたい。微分積分の初歩も必要だ。3Dのプログラムを組もうとすると数学が必要になってくる。最終的には大学の初等レベルまでこなすことが目標になる。
 このあたりでひとまず挙手が止まる。折角の機会であるからぼくとしても幾つか質問してみようと思う。先ず学生作品について聞いてみる。
 Q:説明会の始まる前に学生作品の映像を見せて頂いたが、いずれも似たような構造の3Dシューティングゲームである。あれは同一のカリキュラムに基づいて作られたものであるのか。
 A:3Dシューティングといってもだいたい基本的なところは一緒で、どうしても似たようなことをすることになる。いちいち独創的なアルゴリズムを考案するというわけにはいかない。
 ぼくはここでコナミ専門学校の生徒の技術レベルを推し量るため、拝見したあれら作品の制作にカリキュラムがどのくらい力を貸しているのかということを聞きたかったのであり、アルゴリズムそのものに関する講師氏の回答はそこから逸れているのであるが、さらに突っ込むことをせずになんとなく納得した気分になって流してしまった。今から思い返すと他にも開発環境や使用するライブラリについても質問するべきであったがそれらも失念していたのは失態というべきだ。ぼくは次にこれらの質問をする。
 Q:入学者のなかのどれくらいがコナミへ入社することができるのか。
 A:いままでの実績で言うとだいたい6分の1といったところだ。みなさんはこれを少ないと思うかも知れないが、熱心にカリキュラムをこなして実力を付けていけばきっと入社することが叶うと思う。
 Q:書類審査というのがあるが、ここで失格になるのが心配だ。具体的にどのような審査をするのか。
 A:それほど心配することはない。ただ、何か問題があれば入学をお断りすることはある。
 Q:それはつまり基本的には全員入学させるということか。
 A:だいたいそのように考えて貰っても構わないのではないか。
 これだけの質問ではよく分からぬが希望者を全員入学させ、且つその中の6人に一人をコナミに入れてしまうのであれば大したものだというのがぼくの感想だ。ひょっとしたら二年次に入学するキャリア入学制度に優秀な生徒が集まり、そちらから多くコナミに行くのかもしれないが。続いてぱらぱらと手が上がり幾つか質問が出てくる。
 Q:プログラミングのソフトを何か買う必要があるか。
 A:買うだけの意欲があるなら大いにそうすることを奨める。しかし、タダで使えるコンパイラもあるのでそれを使ってもいいだろう。『Borland』という会社が出している。プログラムの雑誌の多くに付いているし、webからダウンロードすることも出来る。最初のうちはそれで十分だろう。
 Q:プログラム雑誌のなかで良いものがあったら教えてほしい
 A:『Cマガジン』が優れている。初心者の方には難しく感じるだろうが、初歩的な内容の記事も掲載されている。『マイコンBASICマガジン』というものもある。内容としてはこちらの方が読みやすく、幅広く記事を載せている。
 Q:プログラムを扱った書籍はどこで購入するのがよいか
 A:東京ならばいくつも大書店がある。いずれもある程度の品揃えをしている。より専門的な本が欲しければ秋葉原まで出ても良い。渋谷であれば駅からここまでの道になんたら書店(名前失念)というのがある。ここもまあまあの品揃えで、うちの生徒は良く利用している。
 Q:なんたら書店の場所を教えてほしい
 A:(講師氏、道順を説明する。完全に失念)
 このあたりで輪を作った参加者がほとんどプログラミングの未経験者であることを感じる。少なくとも手を挙げて質問をした5人くらいに関してはまったく経験がないという印象である。黙っている人の中に凄まじい猛者がいるとも限らないが。プログラムの専門学校なのだから、小学生の頃からプログラムを組んできたようなオタクが集うというぼくの抱いていたイメージは軽く裏切られたという感想だ。次のはぼくの質問である。
 Q:『プログラマ35歳定年説』というものを聞いたことがある。能力の衰えによってプログラマは35歳あたりで職を追われるというものであるが、これについてどう思うか聞かせてほしい。
 A:たしかにプログラマの能力にはピークがあり、それを過ぎて能力が低下するということはあるかも知れない。しかしその前にある程度経験を積んだプログラマは管理者として計画を統括する側に回ることになる。私のように教育に携わるものもいる。そういう説は取り合うに値しないものだ。みなさんがそういうことを心配する必要はない。
 さらに数人が質問をしたがその内容はよく覚えていない。そうして質問が出尽くしたことを見て講師氏が質疑応答を終えることを宣言して説明会は終了となる。最後に個人情報や説明会の感想を書いたアンケートを提出することを求められる。説明会の感想について思ったままに書き入学の意志について端から冷やかしであるからしていい加減に書き個人情報は正直に住所氏名から「電気通信大学情報工学科二年次在籍」までを書いた。予定通り、午後5時丁度に終了。ぼくとFは飯を食って秋葉原を少し散策してそこで分かれた。
 当日の描写は以上であるが、もう少しキーを叩きコナミ専門学校に関する全体的な印象を記して締めとしたい。コナミ専門学校は本質的に人材を発掘する場として運営されており、営利を主眼としてはいないように思える。コナミのブランドイメージや卒業生の入社実績を売りにして生徒を集める。形式的な選考で集まった生徒は能力・適正とも玉石混淆であるから彼らを一通り叩いてみて一定水準に達した者についてはコナミに迎え入れる。生徒の立場から捉えれば場所を与えられて長期の社員研修を受けるようなものであり、試用期間を2年間与えられる。但し生徒の側が金を払わなくてはならないが。
 素人目であるが、設備は充実しているように思われた。少なくとも個人の財布であれくらいの設備を揃えるのは大変だろう。ただし、生徒数が分からないので機材の数が充実した教育を施すに要求される水準を充足しているかは判断しかねる。講師及び授業の質について言及することは難しい。生徒の技術レベルについても同様であり、サンプルとして見せられたゲームにしても、CG、音楽についてはぼく自身に素養がないために評価できず、プログラムについてもどこまでライブラリやカリキュラムの力に依ったのかが分からぬため判断は難しい。また、あれら作品は生徒たちの制作物の中のもっとも優れたものであったと考えられ、平均的なレベルがどのあたりであるのか分からない。
 コナミ専門学校についてもっと詳しいことを知りたければ、まずはweb上に解説されたコナミ専門学校のサイトを閲覧することだろう。制度やカリキュラムに関する一通りの説明が得られる。それでもの足りなければ、生徒を獲得するために説明会を年中やっているので、それに参加してみても良い。
 ところでコナミ専門学校は人材発掘を重視しているが、これはゲーム専門学校の中でも少数派に属する部類だろう。ぼくとしては、営利を目的として運営される、多数派に属するゲーム専門学校も見てみたかったのである。二つを比較することでより深い考察が生まれてくることを考えたからで、実際にゲーム雑誌の広告から、コナミ専門学校説明会の一週間後に吉祥寺にあるゲーム専門学校(名前失念)にて開催される説明会の情報をピックアップしていたのであるが、当日寝坊して参加することは叶わなかった。これについては至極遺憾に思うところだ。

 最後に
 (i)わざわざ土曜日の午後を潰してぼくに付き合ってくれた
 (ii)チャットで記憶の覚醒に力を貸してくれた
 (iii)草稿を読んで批評をしてくれた
 友人Fに感謝したい。彼が居なくてはこのレポートはありえなかった。また、 (iii)については他何人かの友人にも協力して頂いた。このレポートが幾らかで も読者の慰みになったなら僥倖です。それでは。