スライム概論

情報工学科4年 金武 秀典


1.はじめに
あなたはスライムをご存知だろうか?
大半の人はスライムと聞くと下図左のような形をしたかわいいマスコット的なものを思い浮かべることだろう。しかし、残念ながらこれは正しいスライム像ではない。「スライム(slime)」という単語は「ねば土、(魚などの)粘液」という意味であり本来スライムは粘液状の不定型でどちらかといえば下図右が正しいだろうスライム像である。また、その形状、特徴から物理攻撃(*1)は一際受けつけず凶悪な生物である。なぜ、このように変化してしまったのか、また、本来はどのような特徴を持っていたのかを説明しようと思う。

*1:ここで言う物理攻撃とは剣撃、打撃、銃撃等の直接的な攻撃方法を指す

(*2)
*2:メタルスライムにインスパイヤされました。

2.歴史
まず、簡単スライムが登場する作品の歴史を見ていくことにしよう。多くのゲームに(間違ったスライムであるが)用いられているスライムであるが意外にもその歴史は浅い。
1953年にジョセフ・ペイン・ブレナン(Joseph Payne Brennan)が発表した短編小説『スライム(slime)』において不定形生物が登場したのがスライムの最初と言われている。この時点ではスライムはライフル銃でも傷を負わすことができなかった。
1974年にはアメリカのTSR社が『ダンジョンズ\&ドラゴンズ(Dungeons & Dragons)』というテーブルトークRPGを販売している。この中でさまざまなスライム状のモンスターが登場する。それぞれのスライムによって性質は異なるが基本的に(武器による)物理攻撃は無効であるか逆効果である。また、対処法を知らないと非常に厄介な存在である。
1981年に米国 Sir-Tech社から『ウィザードリィ(Wizardry)』が発売された。このゲームが最初にスライムを弱いモンスターとして扱ったとされている。これ以降スライムは弱いモンスターとして定着する。諸悪の根源である。
また、エニックス(現スクエア・エニックス)が1986年に発売した『ドラゴンクエスト』に登場するスライム(やはりゲーム中最弱)はコミカルに描かれておりマスコット的なキャラクターとなっている。『ドラゴンクエスト』シリーズが大ヒットしたこともあり、スライムはかわいい無害な生物として定着してしまった。実に嘆かわしいことである。

3.特徴
さて、本来スライムとはどのような生物なのかブレナンの小説にどのように描かれているのか見てみよう。ちなみに今回はソノラマ文庫海外シリーズ『魔の誕生日《異色恐怖小説傑作選(4)》』に所収されている『スライム』を参考にした。
まず、スライムの起源であるがどこから来たのかは分らないが、陸と海がまだ形造られたばかりの頃には既に生まれていたようである。海底噴火の影響で地上に現れるまでは深海で生命活動を行なっていたようである。
身体的特徴としては全体的に粘液状の不定型で目など器官は全く無い。唯一、驚異的な触覚(器官として形作られてはいない)によって得物を捕えていたようである。大きさは明確には分らないが全身で人をすっぽりと覆いかぶせる程の大きさはある。移動速度が高く人が走る以上の速度で移動できる。 特筆すべきはその食欲であろう。大きさ、形、性質にかかわらず行きあたった生物はすべて食べつくしてしまうが、それでも空腹感を満たすことはない。記述によれば一晩に150〜250ポンド(*3)もの生物を食べつくしてしまう。
順応力が高く深海から陸上と環境が変化しても数時間で順応してしまう。
粘液状であるため傷口が開いたとしてもすぐに閉じてしまい、仮に食いちぎられても自身の肉片を吸収すれば元通りに戻ってしまう。小説内ではライフル銃を用いても傷を負わすことが出来なかった。唯一、光に対しては畏怖を感じ、炎を用いれば焼き殺すことができる。小説では最終的に火炎放射によって焼かれ黒い煙となって消滅した。

*3:1ポンド=約454g

4.最後に
なぜ、スライムなのか?それはスライムが強いからである。
高校時代にゲームが好きで更に神話が好きだったこともありRPGに出てくるモンスターについて出典を調べるようになった。その当時はスライムに関して簡単なことしか分らなかったが直感的に強いモンスターだと感じた。恐らく、「流体=物理攻撃が無効」という単純な物理的な経験によるものであったと考えられるが…。現実に得体の知れない水みたいな生物に襲われたら、と想像して欲しい。カラスやカエルを追い払うことは出来てもその得体の知れない生物にはどうしていいか分らないという恐怖感が襲っては来ないだろうか?(燃やせばどうにかなるのだろうが…)そう考えるとLv.1の勇者に叩かれている姿を見るとあまりにも理不尽に感じてしまう。ぜひ、スライムの待遇をよくして欲しいと考える。
そして、私は声を大にして言いたいスライムは強い。だからこそ、魅力的なのだ。

参考文献
[1] ウィリアム・サンソム他,魔の誕生日《異色恐怖小説傑作選(4)》,朝日ソノラマ,1986
[2] Wikipedia(スライム),http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%A0